がくにん 2
封筒の中心部には何故かルージュのキスマークが付いている。
こんな事をするのただ一人、影介の秘密を唯一知る理事長だけだ。
取り敢えず手紙の内様を確認してみると、其処にはこう書かれていた。
『今日の昼休み、理事長室に来られたし。もし、来なければ……』
色々とツッコミたいところだが、敢えて此処は突っ込まない。特に後半の文面とか……突っ込まないったら突っ込まない。
(ふぅ、理事長ってのも暇なのかね?)
影介はこうして頻繁に理事長室に呼ばれているのだ。
頻度として週に2、3回は呼ばれている。
しかし、殆どが理事長の話し相手が欲しいだけで呼ばれるだけだが……
稀にだが、色の付いた話し合い?もあったりするが、今は置いておく。
影介は気落ちしながら、自分のクラスの教室へと向かう。
中に入ると、ドアを開けるその音に出入り口にクラスメイト達が注目するが、入ってくるのが影介だと分かるとクラスメイト達はそれぞれの友達と談笑を再開させた。
影介は特に気にする事もなく自分の席に着いて、荷物を置き、鞄の中からブックカバー付きの本を取り出し読み始め、自分の世界に入り込んだ。
数分後、再びクラスのドアが開かれると、黒い瞳と黒い髪が美しく映え、可愛らしくく尚且つ綺麗な美少女が教室に入ってきた。
影介の時には特には何もなかった反応が、その美少女が入った瞬間は漏れる溜め息と、呆けと感嘆が入り混じった感情が教室の中に溢れ出た。
彼女の名は、逢坂双樹(おおさか そうじゅ)。
何処の学校にも一人や二人居る、所謂学園アイドルというやつである。
文武両道、容姿端麗、品行方正、家柄良好、教師陣の受けも良く、モデルも裸足で逃げ出す程のスタイルを持った、完璧超人である。
双樹は朗らかな微笑みを浮かべ「おはようございます」と挨拶をする。
その微笑みを間近で見た男子生徒達は挨拶を返すのも忘れ毒気を抜かれた様に惚けている。
そしてその双樹は挨拶を済ますと、影介の居る席の方へ歩いていく。
別に影介と親交あるわけでもなく、特にこれといった用がある訳でもない。
ただ単に影介と双樹の席がすぐ隣にあるだけだ。
「宗像君、おはよう」
双樹に声を掛けられ、影介はチラッと視線を移す。
影介はコクリと軽く会釈をして、再び視線を本に移した。
(そういえば、彼女とは席替えで席が隣になってから良く挨拶を掛けらられるようになったなぁ。まぁ社交辞令だろうし、あんまり関係ないか)
本を読みながら、器用に思考している。
ぶっちゃけ本を読んでいるというのもカモフラージュで、存在感が薄く暗いというキャラ付けを植えつける為の手段である。