淫蕩王伝―再誕― 88
「はーっ、うまかった。」
「ユタカさんって結構食べますよね。」
「絶倫だからかしらね。ふふ。」
豊とセーラのやりとりに、エリカが茶茶を入れる。
「ちょっ…エリカさん!」
「ここはメシもうまいし風呂はさっぱりするしいい宿だぜ。湯女までいるしな。」
レイラの言葉に豊はネリーやアメリアを思い出してまた興奮してしまう。
(ネリーさんもアメリアさんも素敵だったなあ。特にネリーさんは可愛いし健気で。絶対に迎えに来るよ。)
決意を新たにする豊だった。
「相変わらずにぎわってるな。」
冒険者ギルドに来て早々に、レイラが発した言葉である。実際、今はまだ朝早いのだが多くの冒険者が依頼を探したり、受付で何かやり取りをしたり、仲間と話し合ったりしていた。
(どんな依頼があるのかな。)
きょろきょろと探す四人。そんな時にふと、豊の目に留まった者がいた。
それは二人連れの冒険者らしき女性で、豊とあまり年の変わらなさそうな娘たちだったが、耳がややとがっていて、一人は身軽そうに薄手の革鎧を着こなしており、もう一人は頑丈そうな旅人の服をきこなして、革のチョッキを着ていた。
目を引いたのはその顔で、金髪にエルフっぽい顔立ちで白く可愛く整っているのだが、二人の顔がそっくりなのだ。
体格はというとすらりとしているが結構胸はあるようで相応にふくらんでいた。
そこでエリカが豊の視線に気づいてそちらを見やる。
「ユタカ君、どうしたの…あら、ハーフエルフね。珍しいわね。双子かしら?」
「あれがハーフエルフなのか……ハーフエルフって、人間とエルフの混血なんですよね?」
発言の後半は声を落として、豊は訊ねた。
エリカもやや声を落として答える。
「そうよ。ユタカ君は見るのは初めてね。人間とエルフの混血って珍しいのよね。だから人間からもエルフからも差別されがちなのよ。でもエルフの血を引いているから、外見の美しさと人間のほぼ二倍の寿命が特徴なのよ。」
「おっユタカ、女ひっかける気か?」
「いや……でも、罠探索とかできる仲間は欲しいと思います。」
レイラの突っ込みに、豊は真面目に答える。
そこにエリカも言った。
「そうね。盗賊はいたほうがいいかもしれないわね。聖剣探索で罠がないとも限らないし。誰か心当たりはないかしら?」
「私は無いです。」
「僕も。」
「残念だけど、今は無いなあ。」
セーラも豊もレイラも、心当たりはないようだ。
「仕方ないわね。依頼を見てみましょう。」
こうして四人は依頼書を見に行った。
「リンドバーグまで届け物…これは今は無理…」
「パッシェンデール遺跡だけでできる依頼…意外に少ないですね。」
ふと豊は、大口の依頼を見つけた。
「フレアワイバーン討伐依頼?金貨750枚!! ……フレアワイバーンって何ですか?」
レイラが答えた。
「上位竜種で溶岩で身体を構成した飛竜だよ。主にラーヴァル大瀑布を住処にしている危険な大型モンスターなんだ。」
「ラーヴァル大瀑布?」
「大瀑布と言ってもただの滝じゃない。溶岩の滝なんだ。」
「でもラーヴァル大瀑布はここから遠いし、私たちのレベルでは上位竜種討伐なんてまず無理よ。」
エリカが止めに入る。セーラもそれに賛同した。
「そうですよ。私たちではまだ危険すぎます。」
「悔しいが、勝てる気がしねえぜ。」
レイラも同調した。
「他の依頼を探しましょう。」
「ヘブンズゲートの歌姫ティリナ・ケライノスライブチケット入手願い。報酬は金貨40枚。なおチケット代は別に支払う…?」
「ティリナ・ケライノスさんって昨日宿屋で話に出てたあの人ですよね。」
豊とセーラが口々に言うが、エリカが。
「面白そうだけど、今はまだ無理よね。資金が足りないわ。ほら。」
エリカが指差した先には、チケットの推定価格が書かれていたがあまりに高くて手が出ないのだ。
「うーん、無いなあ…。」
レイラが呻く。
なかなかいい依頼が見つからないのだ。そもそも聖剣探索と同時に達成できそうな依頼が少なかったところに持ってきて、他の冒険者に先を越されていた。
「仕方ありませんね。単純に聖剣を探しましょう。」
セーラがあきらめたように言う。
「そうだね。仕方ないね。」
豊も同意した。
そうして、店で準備を整えた四人はパッシェンデール遺跡へと出発した。
まわりには、あちこちに冒険者の姿が見える。聖剣を目指している連中だろう。