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華が香るとき〜外伝〜
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき〜外伝〜 42

ある格闘技の試合に出ることが決まったのだが、相手の方が著しく体格が大きく、パワー面の不利が予想された。それで、よせばいいのに過激な薬物を大量に摂取して、ドーピングを行ったのである。(その試合に薬物検査はなかった。)
試合には圧勝したものの、薬物の副作用でハラホロヒレハレになった貝丞は、一発も殴られていないのに試合後大量の鼻血を出し、これまた昏倒してしまった。
共に黄色い救急車(以前に工事現場を通った際、誤って黄色いペンキをぶちまけられ、整備予算を仕分けされたせいでそのままになっていた救急車。洋介の自宅と貝丞の試合場がたまたま近くにあったので、同じ車になった。)で病院に運ばれた洋介と貝丞は、治療の結果、ようやく息を吹き返した。そして1日ほど入院してから、ほうほうの体で退院したのである。
「だるい……何もしたくねえな」
退院はしたものの、未だ体力の回復しない洋介は、自宅で瀕死の芋虫のように、ぐでーんと横たわっていた。
「おう洋介。元気がないな?」
これ以上ないほど、能天気に父親が話しかけてくる。事情を知ってる癖にと、洋介は内心毒づいたが、口に出す気力がなかった。
「…………」
「もう、冬休みだよな?」
洋介は、父が何を言いたいのか分からなかったが、黙って少し頷く。すると父は、意外なことを口にした。
「しばらく温泉に行ってこないか?」
「……温泉?」
「ああ。いわゆる湯治というやつだ」
「ふうん……」
洋介はうつぶせになったまま、しばらく考えた。
温泉に行って、どれほど効果があるのか分からないが、このまま家で人間オブジェと化しているよりは、幾分前向きかも知れない。
「それじゃ行こうかな。でも、お金あんの?」
「心配するな。この前宝クジで一山当てた」
「いつ? いくら?」
「細かいことは気にするな」
結局洋介は、父のいつものイイカゲン振りにはぐらかされてしまった。ただ、金があるのは間違いなかったらしく、湯治旅行の計画はトントン拍子に進んだ。そして、誰が言い出すともなく、自然の成り行きで貝丞も同行することになった。
そして、冒頭の惨劇に至る。
洋介父の運転は、お世辞にも安全運転とは言えず、途中何度か暴走族と思しき集団に突っ込み、十数人を轢いた。しかし、3人ともそんなことは全く意に介さず、やがて車は目的地に到着した。
「ここが宿だ」
洋介が車を降りてみると、そこには立派な旅館が立っていた。さして大きくはないが、外装は優美で、築年数も新しそうだった。
「ここに泊れんの? 俺達」
「そうだ洋介。もう予約はしてあるから、好きなだけ泊って温泉につかれ。元気になったら迎えに来るから、電話をしろ」

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