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檻の中
【熟女/人妻 官能小説】

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第11章-1

テレビ出演も雑誌取材も、本業以外の仕事は沙良にとっては“公私”の“私”の部分だ。
多忙の元凶のもう片方、“公”の部分は半期に一度の決算である。税務署への申告は年に一度だが、創の学費の支払いと病院設備投資の為の積み立ての便宜から、沙良は半年に一度決算を司法書士に依頼していた。そのために必要な資料をまとめるのである。これさえ終わると沙良にとってのその年の半分が過ぎたことになる。
だが、これが実に煩雑で、『半年に一度でも大量なのに、世の中はよくも年に一度にしているわ…』と、ため息が出るほどの量だ。
医院を継いで間もなく沙良は銀行取引の度にその通知を控えとしてPCのアドレスに受け取る手続きをしていたが、最近ではその通知すら目を通すことが出来ないほど多忙を極めている。通帳記帳すらこの半年していない。『はー…』沙良は何度も嘆息しながら、ぱんぱんに膨らんだクリアファイルの中の領収書を月ごとにまとめていった。
8月半ばを過ぎ、司法書士から届いた決算報告書を繰っていて沙良は驚くことに気が付いた。
純利益が、下がっていたのだ。あれほど多忙を極めており、患者数も格段に増えたのに、である。
―どういうことなの…?
司書に記帳してもらった数冊の通帳を取り出し、全ての慌ててチェックした。そして、瞠目した。設備投資積み立て用の預金残高が年初の半額ほどまでになっていたのだ。引き出し人は全て自分、だ。
―そんな、ばかな。
積み立て通帳の預金はそう何度も引き落とさない。学費は年に一度、設備投資で使うのは数年に一度だ。なのに、この半年の間、2ヶ月に一度、多いときは月に二度も引き落とされている―。
よく銀行で預金の引き出しをしている人物の後ろにいて暗証番号を盗み見、同時にカードを盗む犯罪グループの事件をテレビで見たことがある。
沙良は慌ててカードの入った鍵付きの引き出しを開けた。…ある。
ここまで来れば考えられるのは一つだ。内部の人間のしわざ。紘一郎か創、あるいは3人いる看護師か…。アダルトサイト入会・投稿と預金引き出し…。どちらも同一人物の仕業なら、間違いなく自分を憎む人間だろう。自分が身内の誰かにこれほどまでに憎まれている―?そう考えただけで暗澹たる気持ちになった。引き出したのが自分の名前になっている以上、警察に被害届を出したとてすぐにまともには請合ってはもらえまい。
これは興信所か探偵事務所を使う以外に道は無いのではないか。ここ数ヶ月度重なった異常事態がこれをきっかけに一つに繋がり一気に解決するのかも知れない。それに預金の件だけなら沙良もさほどには抵抗を感じずに依頼できる。沙良の腹は決まった。何としてでも突き止めねばならない。ここで断ち切らなければ次に何が起こるかわからないのだから。
だがいかな大胆な沙良でさえ、さすがに見ず知らずの探偵事務所や興信所に飛び込みで依頼が出来るほどの度胸は無かったから、司法書士にそれとなく訊くことにした。念の為、沙良は駅にある公衆電話を使うことにした。PCのアドレスさえ悪用され、カードまで持ち出されているのだ。家の電話が安全とは到底思えない。
外に出てみると、黒々とした街路樹の影が縮んで見えるほどアスファルトに照りつける日差しは強烈だ。吹き出る汗をハンカチで押さえながら沙良は歩いた。
ようやっと公衆電話のボックスのドアを開くと諳んじている司法書士事務所の番号を押した。するとすぐ、親の代から懇意にしている70を過ぎた司法書士事務所の長、橘川がしゃがれた声で電話に出てくれた。沙良が事情を説明すると、橘川は、
『やはり…。おかしいと思ったんですよ。ありえないことですからねぇ。…解りました。直接知っているわけじゃあありませんが、信用の置ける探偵事務所を知っている人物に聞いてみましょう。先方には私から連絡を入れておきます』
『有難うございます。助かります。事情が事情ですので、くれぐれも事務所の他の方には内密にお願いします…』沙良は受話器を置いて、ひとまずホッと息をついた。疑うのは気持ちのいいものではない。ましてや犯人と考えられるのは身内だ。半日で沙良はどっと疲れてしまっているのを感じていた。


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