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もうひとつの本当の優しさ
【青春 恋愛小説】

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もうひとつの本当の優しさ-3

「なんだ空っぽか....」
僕はそう呟いて箱をポケットに戻した。
ケーキを届けたお宅で子供の嬉しそうな笑顔を見た時、母の言葉の意味がわかったような気がした。
店へと帰る途中で、前から天城さんが歩いて来るのが見えた。天城さんは落ち込んでいるような....元気のない顔をしていた....
「お嬢さん浮かない顔をして....何かあったのですか?綺麗な顔が台無しですよ!」
僕は思い切って天城さんに声をかけた。僕の顔を見た天城さんに、ポケットから取り出した箱を差し出した。
「1日早いのですが...クリスマスプレゼントです!」
素直に受け取ってくれた天城さんに
「どうぞ開けてみて下さい!」
僕が話しかけると天城さんは素直に開けてくれた。
「えっ?」
箱の中を見た天城さんは驚いたような顔をしていた。
「クリスマスプレゼント受け取ってもらえましたか?」
天城さんは不思議そうな顔をしていた....
「多分...今のお嬢さんが最も必要としているものですよ!」
天城さんは再び箱の中を見ていた....
「この箱の中には勇気が入っていたのですよ!」
「勇気?」
「ハイ....前に踏み出す勇気です....今の私には....この箱に入るくらいの小さな勇気しか差し上げられませんが....それでも....お嬢さんの背中を押してくれる小さな手のひとつになってくれるはずですよ!」
天城さんは僕の顔をジッと見ていた....
「クリスマスには幾度も奇跡が起きています....その奇跡は前に踏み出す勇気を持っていた者に起きているのですよ!」
「ありがとうございます!」
天城さんの顔に笑顔が戻ったような気がした....
「それじゃあ...明日の準備がありますので....素敵なクリスマスを!!」
そう言って僕は歩き始めた....少し歩いてから振り返って天城さんのほうを見た....天城さんはまだ僕のほうを見ていた....僕は右手を上げて
「HAPPY merry Christmas!」
天城さんにそう言って、僕は店へと足を進めた。
僕は何をやっているのだろう....もしかしたら最大のチャンスを逃したのかもしれない....今僕が告白していたら....もしかすると....そんな思いがない訳ではない....しかし....僕では....天城さんに....あの笑顔を取り戻す事は出来ない....彼氏に見せていたあの幸せそうな笑顔....多分....僕にはムリだ....僕に出来るのは....天城さんの笑顔を取り戻すために出来る事は....背中を押してあげる事だけ....彼氏との間に何があったのか知らない....しかし一歩前に踏み出さなければ何も変わらない....だから僕はそのための勇気をあげたかった....小さな....小さな勇気だけど....これで良かったんだ....僕は自分に言い聞かせた....僕は自分自身の失恋の後押しをしたのかもしれない....
店に着くと凪沙さんが帰るところだった。
「送るよ!」
僕がそう言うと
「えっ!」
凪沙さんは驚いていた。
「どうしたの?」
そう尋ねると
「その服で?」
「えっ...やっぱりまずいよね!着替えてくるから待ってて!」
僕は急いで着替えて凪沙さんと店を出た。
店を出てからずっと凪沙さんは一言も喋らなかった。僕と歩くのはイヤなのかな?そんな事を考えていたが、そんな雰囲気に耐えられなくなり
「あのさ....」
「えっ?」
「天城さんって彼氏いるんでしょ?この前偶然見たんだよ!楽しそうに話しているところ!確か名前は...」
「もしかしたら、木下君?」
「そう呼んでいたような...」
「やっぱりそうだったのか!私にはただの同級生って言ってたのに....」
それからはいつもの凪沙さんに戻って会話が弾んだ。凪沙さんの家の前に着いて
「じゃあまた明日!」
僕は凪沙さんに声をかけて来た道を戻った。


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