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続・聖夜
【その他 官能小説】

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続・聖夜(後編)-3

その街の小さなホテルに泊まった翌日、私はうっすらとした朝靄が漂う街を抜け、あの神父が
住んでいたという修道院を訪れた。その修道院は、街の高台から少し離れた森閑とした林の中に、
ひっそりと佇んでいた。

蔦の絡まった鉄柵に囲まれ、どこか牢獄を思わせる黒ずんだ石造りの建物は、重く暗鬱な印象を
与えた。その敷地からは、谷を埋める森や青々としたぶどう畑の拡がりと点在する赤茶けた屋根
をした民家を一望することができた。


修道院の入り口の錆びた鉄扉を開けたとき、まるで奥深い洞窟の底から吹いてくるような澱んだ
冷気が私を包み込んだ。

足を踏み入れた修道院の中は、淡い翳りに包まれ、色褪せた夥しい聖画と彫刻で飾られた広間と
いくつかの小部屋に分かれ、黒ずんだ石床は冷えきっていた。


私は、誰もいない修道院の中を抜け、外の回廊へ出た…。

早朝の太陽のまぶしい光に包まれたぶどう畑が、修道院の外におだやかに広がる。どこか空虚な
微熱が、朝の冷気の中で私のからだの中に漂い始めていた。



あの神父の墓碑は、修道院の近くにある墓地の一角にあった。

薄い苔が覆った質素な十字架がいくつも並び、その中でも、あの神父の墓碑は、ひとまわり小さ
い質素なものだった。


樹木の小枝を微かにゆするさわやかな風が吹いていた…。

私は風に揺れる樹木のすすり泣きのような音の中に、あの神父が手にした鞭の音の鮮やかな記憶
を脳裏のどこかにふと呼び起こしていた。


墓碑の前で跪き、十字を切り、手を合わせたとき、私は、ふと霧の中からあらわれた彼の幻影を
見たような気がした。あの教会の地下室で私を鞭打つ前に、全裸になった私の性器に頬を寄せた
彼の顔がしだいにはっきりと浮かんでくる。

彼は、私が自分の娘であることなど、もうとう知る由もなかったのだ。私もそのことを彼に問い
詰める気はなかった。ただ、神父は私という母麗子の亡霊に怯え、罪の意識に自分を憐れ、苛み
続けるしかなかったのだ。


ふたりは愛しあっていたのに、愛が悦びに充たされて実ることを妨げられた。
そこには、誰にも説明することができない苦痛だけがあり、その苦痛の中で、呻き、悩みながら
も、その苦痛さえ祝福されたものとしてふたりは受け入れなければならなかったのだ。


神父は、決して背くことができない愛のために母との愛を失った。愛のために、愛を失ったのだ。
そのとき、私は神父の顔に重なるように揺らいだ母の瞳が、ふと深い悲しみをたたえながら、私
をじっと見つめているような気がした。


いや…母の瞳の中が、悲しみで充たされていたのか、穏やかな愛に満たされていたのか、私には
理解できなかった。




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