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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第2章 運命の人-3

2、しあわせの不安

 ミニョンと私の時間は、ミクとは比べようのない、果てしのない深さを持って私を大人へ変身させていきました。
 私は日一日と成長していくのを自覚しました。
 あの日から、私の乳房は形良く盛り上がってきましたし、自分で感じられるほど全身の肌がしっとりと湿り気を帯びてきました。私の体の奥にある、女性としての証明書が封切られたようでした。
 脱衣所の姿見の前で、二人はお互いの体を褒め合いました。かつての私は、級友たちの健康的な小麦色の肌を羨ましく思っていましたが、色の白さ、長く細い脚、背の高さなどに抱いていたコンプレックスに近い感覚は、私とよく似た体型のミニョンを見て<美しい>と思えるのは、自分も、本当は美しいのかも知れない、と考えるようになって消えていったのでした。こうした心境の変化は私に笑い顔を生じさせ、ミニョンに影響されたコケティッシュな仕草も自然にできるようになっておりました。
 母は、そんな私の成長に気付いたのでしょう。
「大人になったってことね」と一言つぶやき、少し不機嫌な様子でした。
 でもミニョンは、時に応じて私のさまざまな部分を名指しし、知る限りの日本語で、もどかしくなるとフランス語になって、<美しい。モンショコの完璧な美しさはビーナスよ>と褒めてくれるのが大きな自信となっていきました。もう人目を気にすることもなくなり、初めて買い物もし、お店に入って店員と話せるようにもなっていたのでした。
 ミニョンと二人で出かけるときは手をつなぎますし、ミニョンが私の腰に手を回すこともあります。町行く人は、そんな二人に驚いたように立ちすくみ、過ぎ去るまで口を開けて見送る人もいました。自意識過剰のようですが、まだ私の体の奥には、自分に対する不具感が澱のように淀んでいて、人目を怖れる気持ちが全くなくなっていたわけではありませんでした。でも、以前のように縮みこむこともなく、ミニョンと共にいる喜びが自信を支えてくれたのです。と共に、ミニョンの私に対する濃密な愛は、ミクとのつらい別れを遠くへ追いやってくれました。

 ミニョンは、二人きりになると、プロヴァンスの海や空、南仏の風景や民族色の中で、自らの道しるべを探し求めた想い出をよく話してくれました。なかでも私は、ミニョンの初恋の話に感激し、ますますミニョンが好きになったのです。

 ミニョンがプロヴァンスの大学に通い始めた頃、それまで親友だと信じていた女友達が急に結婚するために大学を止めてしまった、というのです。その人の結婚は、単なる親友ではなかったという愛の勘違いを思い知る切掛けになったのです。親友を捕られてしまった寂しさは、片手をもがれたような痛みとなり、日を追う毎に悲しみを深めるのです。何も知らないその親友が、自分の夫となる人をミニョンに紹介したときは、その男が死んでしまえばいい、と呪うまでに失ってしまった理性。親友の幸福を願わず、自分本位の浅ましい人間だと気付いたときの自己嫌悪感。それは同時に、自分が同性しか愛せない人間だとはっきり認めさせるものでした。
 親友の結婚はミニョンの人生観を変え、修道院に入ろうとまで悩んだそうです。そのように悩みながら、宗教書や、歴史書を読みあさっているうちに、ようやく一つの結論にたどり着いたと言うのです。
 人間が観念として作り、そして絶対化した神。それは人が生みだす以上数多く作られていくことになる。その一つの神を絶対視するようになると、他を認めまいとする人間の狭量な心を作ってしまう。だから、神々の一つを信じる人は、必ず他人が信じる宗教を邪教というようになる。人それぞれに備わっている個性まで、自分が考える規範と違うからといって他を認めないというのは、ひとつの神を信じることによって起こる心の変化が狭量な心を作ってしまうのではないか。
 自分の悩みは、神に縋って答えが得られるものではない。私は、神を捨てよう。そして、人間の本質に関わるところにはなんの差別もないことだけを信じよう。だから、今の悩みは時に任せて、自分が心から愛し、そんな自分の全てを受け入れてくれる人を待とう。その人、その女性が私を救ってくれる。これしか生きていく道はないのだと。
 その時の私には、およそこのような内容の話はちょっと難しかったのですが、ミニョンの言いたかったことは、ミニョンにとっての私は、ミニョンを救うことができる世界で唯一の女性だと言うのです。初めて会った瞬間に崇高な天使を見つけたと感じ、母国の彼女を忘れるための日本留学は、私を見つけるための神が与えてくれた運命だったのではないかと。そのような話を、かみ砕きながら私に語ってくれました。

 私は、ミニョンの真剣な顔を面映ゆい気持ちで見つめおりました。
「翔子が……ミニョンを救えるの……?」
「Oui……心から神様に感謝した。神様は大きい。今日までのこと。ショコを私に与えて下さったこと」
「神様を否定していたのに、あの時に変わったってこと……?」
「私の神に対する理解が浅かった。何故なら、こうしてあなたを与えてくれる<運命>を作って下さったから。でも、今冷静に考えてみると、これほどに綺麗なショコだもの。男の人だって憧れるでしょうに。そしてショコ自身も、女性ではなく普通に男の子が好きな女の子だったら、私はどうなっていたでしょう。」
「翔子はずっと前から男の人には何の魅力も感じない。女性の綺麗な肌しか好きになれないことに気付いていたのよ」
 「ショコはそう言うけど……私はショコを知らなかったのよ。なのに、初めてあった瞬間に、私の救いの天使だと感じて血が凍るほどの感動を覚えたのは、自分の意識をそのようにコントロールできるものではないでしょ? そこに神の大きな意志を感じるのよ……」


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