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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第1章 脱皮-3

「翔子さんの髪とっても綺麗なのに、どうしてそんなに短くオカッパのようになさってるの?」
「ママの言いつけなの。私に長い髪は似合わない……て」
「だから余計背が高く見えるんだわ。ミクのように長くなされば? すごく似合うと思うけど」
「多分ママは許さないわ。翔子は枯れ木みたいで可愛くないから、女の子らしくするのは似合わないって。この髪、少し伸びかけるとママが切ってしまうの。別に長い髪にしたいとは思わないんだけど、枯れ木はちょっと……ね」
「翔子さんが枯れ木ですって? 失礼なママね。ミクが怒ってあげる」
「私、この背の高さがいやで仕方がないの……でもこればっかりは言っても仕方ないわね……」
「あのね、翔子さん……」
 ミクは左右を窺うような仕草をすると、駅近くにある神社の境内の奥へ私を誘いました。二人してお堂の階に掛けると妙な話をし始めたのです。
「翔子さん……、なぜみんなが翔子さんを避けるのか、私、分かったの」
「…………」
「ミクは違いますからね。絶対違いますから……」と念を押しながら。
 それは、私にとっては驚天動地と言ってよいほどの信じられない話でした。
 級友たちの間では、私は、この世の人ではないってことになっているようなのです。何年も一緒に進級してきた筈なのに、なぜ、あの人だけが急に大人のようなお色気が出てきたの? というのが発端らしいのです。たしかに私は、この2・3ヶ月で膝が痛くなるほど急に背が伸びてしまったのです。
 あの人に近づくと、なぜあんなにいい匂いがするの? もともと花の精だったのよ。蝋人形のように美しいけれど、人の血が流れていないのね。あの、いつも悲しそうな、大きな潤んだ目で見つめられると失神しそうになる。何か大きな力を持っている人じゃない? そう、超能力人類が住む世界から来たお姫様。現代に蘇ったカグヤヒメかも知れない。あの、白くて長い脚、それにあの首の綺麗さってどうでしょう。お弁当だって、私たちの3分の1も食べないのよ……
 私に話しかけられると、あの人がしゃべった……と、信じられないことが起きたようにしどろもどろになってしまう、ですって。
 綺麗すぎて気持ち悪い……って言う子もいたらしいのです。中には自分を可愛いって思っている子もいて、何よ、あの人は化粧しているのよ、私だってお化粧すれば……きっとお化粧のせいよ……と、変なヤキモチを焼く子もいた……と、こんな話なのです。
 私はミクの話を聞きながら、それってどこの誰のこと? 何かのオカルト物語? 今流行っているという少女漫画のお話……?
 枯れ木みたいで女の子らしくない、と、母から言われ続けてきた私には、全く無関係の話を聞かされているようで返事のしようもありませんでした。
 今思うと、自分も同年代の少女でありながら、同級生の感受性の機微などは理解できませんでしたが、いじめに会っていたわけではなく、いわば<敬遠>されていたのだと分かっただけでも、どことなく安心したのを覚えています。
「結局翔子さんが綺麗すぎるってことじゃないかしら」
「綺麗……翔子が……?」
「ウン、ミクもそう思う。だから、今までのように親しく話せるような人ではなくなっちゃって、自分たちとは違う世界に行ってしまった人。そういうことらしいの」
「だからカグヤヒメ? なんなんでしょう……それって」
「たしかにミクも、この人はみんなと違う。そう思ったから一番先に翔子さんに声をかけたんだけど……。はじめて翔子さんの側でお話しながら、なんて綺麗な人、この睫毛にシャーペンが乗りそう、なんて考えていたわ。でもミクは、そういう人とお友達になれたら嬉しいな、って思う方なの。さっき翔子さんを追いかけながら、翔子さんの後ろ姿ステキだなーってドキドキしちゃった。長い脚が、遠くにいらっしゃるのに白く浮かび上がって、すぐ目の前にあるような……これってオーラって言うんでしょ? だから、みんなが感じていることも何となく分かる気がしたの。といって、ミクは翔子さんのこと人形だなんて思わないわ。ミクと同じミステリーファンの女の子なのよね」
「ありがとうミクさん。でも、あまりに酷いわ。枯れ木の翔子が綺麗って言われたって、可愛いとは言ってもらえないんだもの。からかわれているみたいで」
「そこよ!」
「そこって……?」
「翔子さんはご自分の綺麗さを知らないから、みんなからすると気取って見えたり、翔子さんの静かすぎるのが不気味だってことになったりするのよ。ミクには分かったの。翔子さんは、みんなのようにペチャクチャおしゃべりができないだけだって。そうでしょ?」
「ええ、まあ……いつも一人でいることに慣れているせいかしら?」
「ミクはっきり言うとね、そういう翔子さんのこと、会った瞬間からものすごく好きになったみたいなの。ミクには絶対にない物を持ってらっしゃるからなのね。だから気になったんだわ。だって……だってね、夜、眠るときなんか、翔子さんばかり目に浮かんじゃうんだもの。苦しいくらいなの……。こんなミクのこと、お嫌い?」
 夕日に照らされて紅潮しているミクの頬が私には羨ましかった。そして、こんなに可愛いミクがそこまで私を思ってくれているのを知って、私は初めての感情の高ぶりを感じました。


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