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本当の優しさ
【青春 恋愛小説】

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本当の優しさ-8

教室を出て家に帰ろうとした時、前を歩く女の子達の話し声が聞こえてきた。
「ねぇ!聞いた?北原の奴フタマタかけられてるらしいよ!」
「聞いた!聞いた!どうせ調子に乗って我が儘ばかり言ってからじゃないの?」
「そうよね!あんな我が儘な女なんか相手にしたくないよね!」
私が近くにいる事に気付いていないのか....それともワザと聞こえるように言っているのか....私は憂鬱になって、その子達から離れて歩くようにした....落ち込みながら歩いていると肩を叩かれた。振り返ると真弓と理彩が立っていた。二人とも心配そうに私を見ていた....
「美咲....美咲はそんな子じゃないって私達は知っているから....ねぇ理彩!」
「そうだよ....真弓の言う通り....だから気にしないで!」
「ありがとう....私全然気にしていないよ!私がよく知らない子に何を言われたって....これが真弓や理彩だったらかなりヘコむと思うけどね!」
私は無理して笑った。
「和哉はフタマタかけられる程器用じゃないっつうの!ていうか....そんな度胸ないよあいつには....」
「ちょっと理彩!それってフォローしてるの?それともバカにしてるの?」
「えっ?両方かな?」
そう言って理彩は笑った。私はそんな二人の話しを笑顔で聞いているフリをしていた....

それは昨日の事だった....バイト先に向かう途中で和哉を見かけた。
「か.......」
右手を上げて呼びかけようとしたが、隣の女の子と笑顔で話しているのに気付いて思わず木の影に隠れてしまった....話の内容までは聞こえないが、和哉の笑顔を見る限り二人の親密さは伺い知れた....その女の子はただの同級生だと言っていた千春さんだった....和哉は...私にも...そして直輝君や理彩と一緒にいる時にも....見せた事のない笑顔を見せていた....安心したような....心を許しているような....そんな笑顔だった....
「和哉....どうして....」
私は無意識に呟いていた....和哉達は私に気付かずに....私の横を通り過ぎようとしていた....その時千春さんの声が聞こえた....
「ゴメンね...木下君....こんな所もし知った人に見られたら....木下君が困っちゃうだろうから....私行くね....」
そう言って千春さんは走って行った....気のせいか千春さんは泣いていたように思えた....和哉は呆然と千春さんを見送っていた....私は和哉に気付かれないようにその場を離れた....和哉の事を信じられない訳ではない....しかし....言いようのない不安が私を襲って来た....

「ねぇ美咲聞いてる?」
私は真弓の声で現実に引き戻された....
「ゴメン....ちょっと考え事をしてた....何?」
「今日これから家に来ない?理彩も来るって....」
「今日はこれからバイトが入っていて....ゴメンね!」
「それなら仕方ないなぁ...理彩どうする?」
「行くよ!真弓がいいって言うなら!」
「ダメって言う訳ないでしよ!美咲も来れたら来てね!」
「うん....ありがとう....」
「待ってるよ!美咲!」
理彩も誘ってくれた。
「それじゃ....またね!」
私は二人と別れて家へと向かった。



「今日変な噂を聞いたんだけど...」
直輝が話しかけて来た。
「変な噂って?」
「お前がフタマタかけてるって....」
「えっ?」
「お前がそんな事出来るはずないって思うけど...」
「そんな事する訳ないだろう!俺には美咲がいるんだから....」
「そうだよな!悪いな変な事言って!お前が知らない女の子と楽しそうに話しながら歩いてたってクラスの奴が言うもんだから....一瞬疑っちまったよ!」
その時天城さんの顔が浮かんだ....
「で...誰なんだお前が一緒にいた女の子って?」
「それは....天城....」
天城さんの名前を聞いた途端直輝の顔色が変わった。
「どういう事なんだよ!天城なんかと!あいつが何をしたかもう忘れちまったのか!」
「偶然逢ったんだよ!そしたら、俺に彼女が出来たって聞いたよって言うもんだから....」
「そうか....それなら....」
直輝がこんなに怒るなんて意外だった....俺の都合のいい話しか聞いていなくて....本当の事を知らないのだから仕方ないのだけど....




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