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イート・ミー!
【コメディ 官能小説】

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イート・ミー!-5

結局、その日は誘いもなけりゃメールも電話もなかった。
そして、これはその日だけではなく。翌週も翌々週も、驚いたことに錦からの誘いはなかった。
「あ、栄ちゃん。今帰り?」
「お、おう」
「そなんだ。錦はこれから部活〜、じゃあね!」
こんなふうに会えば普通に話す。本当に、いつものように。嫌われてるってわけじゃないんだろう。それじゃ、何だ、あれか。俺と寝なくなったのは、彼氏ができたからってか?
(まあ、それならそれでいいんだが)
従兄とセフレみたいな関係を続けているのは、あいつにだってよくない。特定の男ができて、そいつとヤってた方がよっぽど健全だ。
しかし。
(俺の身体が、ヤバい)
セックスに馴れた身体。この前の金曜日は気に入りのDVDで抜いたのだが、射精した後の虚しさといったら。そんな自慰の虚しさに抜かない日が多くなった。
それでも、溜まるものは溜まる。際どいスリットスカートのOLやミニスカートの女子高生に悶々とする様はまるで中坊だ。
一昨日昨日と抜かなかった俺は、不覚にも短パン姿の錦に欲情してしまっていたのだった。



錦との最後のセックスから、三週間が経とうとしている。
最近は兄貴の研究発表の手伝いも相まってあまりよく眠れず、俺はあくびをかみ殺していつもの電車に乗った。なぜか最近、いつもの時間いつもの車両に人が多い。車内は相当に混み合っていた。
(ん……?)
暑さのせいか、俺の斜め前に立っている女子――制服から同じ学校と分かる――が顔を真っ赤にして俯いている。小雨の降る今日は特に蒸し暑い。それにこの人いきれじゃ仕方ないか。しかし今にも倒れそうなので、おせっかいながらも俺はその子を見ていた。
(って、マジかよ)
車内の熱気で気分が悪いわけじゃない。
(おいおい)
どうやら彼女は痴漢されているらしかった。
時折身体をびくりと震わせている。
『お待たせいたしました、三日町〜三日町でございます。お乗換えのお客様は……』
駅へ着いたことを知らせるアナウンス。数人が降りて、また数人が乗り込む。
俺の身体は後ろのサラリーマンに押され、例の彼女のすぐ近くへ。
(……モロに触ってんじゃねぇか)
ちらと下方に視線をやれば、彼女の尻に手を這わせるスーツ姿のおっさん。しかも涼しい顔してやってやがる。
『お待たせいたしました、原方〜原方でございます』
下車駅に着いた俺は、小さく溜息ひとつ、そいつの手を掴んだ。目を見開くハゲかけたサラリーマンの手首を掴んだまま、俺は無言で彼女の背を押す。
「ちょ、君」
涙目で見上げる彼女も驚いた様子で俺とサラリーマンとを交互に見やるが、頷いて電車を降りた。辺りにいた数人が俺達を見てざわつくが、ちらと一瞥を加えただけで我関せずといったふうに去っていく。
「な、何だね君、い、いきなり乱暴は……」
「自分の胸に手ぇ当ててみてくださいよ。心当たり、あるでしょ」
言って大袈裟に溜息をつき、指をパキと鳴らしてやれば、ひぃとサラリーマンが情けない声を上げる。
強面で身長がデカいのはこういう時に便利だと思う。使う機会なんてほとんどないが。
「やることやったら、行っていいすから」
「君、わ、私は何も……」
俺は傍らにちょこんと佇む彼女に目をやった。
「見逃すって言ってんですよ。だから、せめて彼女に謝んなよ」
動画あるんだぜ。俺がハッタリでそう言うと、サラリーマンの顔色が変わる。そして渋々といったふうに頭を下げた。とてもじゃないが誠意なんて伝わらない。だが、あまり時間を取られるのも嫌なので、俺はサラリーマンの名刺だけいただいて彼女に納得してもらった。
腕時計を見やる。うん、まあ走ればギリギリで始業には間に合うか。
そもそも、あの痴漢がこんな簡単に謝るなんて思っていなかったのでラッキーだ。
「あの……」
彼女が躊躇いがちに俺に声をかけた。
「あの、ありがとうございました……」
真っ赤に染まった頬と潤んだ目を俺に向ける。
(――っ)




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