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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・エザカール-4

 その襲撃は、突然だった。
 目的地まで続く街道が森林を突っ切り、入り込んでしばらくしてからの事である。
 矢が風を切り、近くの木へ突き立った。
 ビィン、と矢羽のぶれる音がすると共に左脇から怒声が上がる。
「フラウ、深花!下がれ!」
 馬の手綱を引きながら、ティトーが叫んだ。
 その手は、腰に佩いていたショートソードを抜き放つ。
「深花、こっちへ」
 フラウの誘導に従い、深花は戦闘に巻き込まれない位置まで避難する。
 深花の前に立ちながら、フラウは慣れた手つきで隠し持っていたナイフを数本取り出した。
 ティトーとフラウが守りに入ったのなら、攻めに転じたのはジュリアスだ。
 背中に差していたバスタードソードを引き抜き、近くの茂みから鬨の声を上げながら襲ってきた一団を迎え撃つ。
 第一陣は、あえなく剣の犠牲になった。
 頭蓋を刀身で叩き潰され、胴体を力任せに切断され、血溜まりに足をとられて転倒した所を馬に踏み砕かれ、首を刎ねられて絶命する。
「なんだこいつっ!?」
 まだ何者かが隠れている茂みの奥から、狼狽した声が上がる。
「ガキのくせに手練れだぞ!」
「くそうっ!」
「退け!こいつらはやばい!」
 どたどたと、複数人が走っていく音がした。
「……殲滅する。不愉快だ」
 不吉な口調で言うと、待ったをかける間もなくジュリアスは馬に拍車をかける。
 一声いなないて、黒星号は駆け出した。
「だから一人で行くなっ!フラウ、深花の面倒見ててくれ!」
 ティトーは慌てて飛び出し、ジュリアスの後を追う。
「面倒?」
 フラウが視線をやると、疾駆鳥の上に深花がいない。
 深花は脇の地面にうずくまり、必死でえづいていた。
 その様子から……生の殺人現場を見るのは初めてなのだと、フラウは気づく。
「……刺激が強すぎたわね」
 馬から降りたフラウは、深花の背中をさすり始めた。
「吐くものを吐き出したら、移動しましょう。ここじゃ、落ち着かないでしょう」
 フラウが二頭の手綱を引き、血生臭い現場から離れた場所で男達を待つ事にする。
 抜き身の剣を手に戻ってきた二人だが……ジュリアスは、鞍にボールを六つぶら下げていた。
 それらを直視しないよう、深花は目を逸らす。
 臭いは、フラウから借りた香水を染み込ませたハンカチを当てる事でごまかした。
「近距離で矢を当てる事ができない時点で、下手くそなのは分かったが……歯ごたえがなかったな」
 ジュリアスは手近な広葉樹から葉をむしり取り、血と脂で曇った刀身を拭い始める。
「ま、首を市局に引き渡せば路銀は稼げるからよしとするか。行くぞ」
 刀身を拭い終わると鞘にバスタードソードを納め、ジュリアスは言った。
 深花は青ざめた顔のままで疾駆鳥に乗り、ジュリアスから距離を空けるよう鳥に指示する。
 深花が隣に来ない事で黒星が一度こちらへ振り向いたが、ジュリアスにつつかれて渋々と歩き出した。
「……深花」
 ティトーの声に、深花はそちらを向いた。
「俺は昨日言ったよな?野盗に気をつけろと」
「……」
 言葉を出すと胃がでんぐり返りそうだったので、深花は黙って頷く。
「これがその、『気をつけなきゃならない事』だ。ジュリアスが負けていたら俺もジュリアスも殺され、君はあいつらに輪姦されるか売春宿に売り飛ばされるか……売られたらそこで薬漬けで客を取らされ、使い捨てにされていたろう。ジュリアスがした事は俺達を守る行為であり、軍人としてはまっとうで当然の事をしただけに過ぎないんだ」
 フラウが、言葉を付け足した。
「残酷だけど……極端な話、これが軍人よ。躊躇いなく、人を殺せる人になる事」
 喉に絡み付く唾を、深花は必死で飲み込む。
「私も……いつかは、誰かを殺さなければならないんですね」
 自分に殺意を向けてきた、ピンクの髪の少女を思い出す。
 おそらく自分は、彼女と殺し合わねばならない。
 ティトーは、自分のペンダントを握り締めた。
「……どうだろうな」
 深花の呟きに対する返答は、少し意外なものだった。
「深花、君は人を殺すには幼すぎる。殺人を任務・義務として受け入れ、割り切れるほど……世界や軍に馴染めてはいない」
 仲間のために剣を振るい、人を殺せる男。
 たった一つしか年の違わないジュリアスが、急に大人に思える。
 自分はまだ……割り切れない。



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