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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・エザカール-3

「揃ったな」
 ジュリアスの隣席に陣取ったティトーは、テーブルの上に羊皮紙を広げる。
「これがこの地域一帯の地図だ」
 羊皮紙が丸まってしまわないよう重しを乗せながら、ティトーが言った。
「ここが今いる町。明日からはこの街道を道なりに進めばいい」
 ポイントを指し示しながら、ティトーは説明する。
「道中は……野盗に気をつけるくらいだな。たいしたトラブルがなければ、けっこうな距離を稼げるはずだ」
 簡単にミーティングを済ませた頃、給仕が夕食を運んできた。
 バターを染み込ませた黒パンとハーブオイルに漬け込んでからグリルした鳥のモモ肉、野菜たっぷりのスープが献立である。
 男二人はそれらにワインを一杯付けて、四人は談笑しながら食事を摂った。
 食事が終われば夜の町に繰り出すのも自室に引き取って就寝するのも自由だが、深花は部屋に戻る前に厩舎へ向かった。
 厩番からランプを借り受け、馬房に足を踏み入れる。
 暗い中に明かりが灯った事で好奇心が刺激されたのか、仕切りの中から疾駆鳥が顔を出した。
 クアァ、と深花を見て鳴く。
 鳴き声を聞いて、隣の馬房から長い鼻面が出てきた。
 白い馬体に黒い星。
「お邪魔するわね」
 隣の黒星号に断って、深花は疾駆鳥に近づいた。
「お疲れ様」
 疾駆鳥のダチョウのようなフォルムの中から長い首を選び、優しく叩いて鳥をねぎらう。
 鳥は気持ちよさそうに一声鳴き、クチバシを深花の頭に近づけると髪を羽づくろいし始めた。
「私、乗るのに慣れてないから疲れたでしょう?明日は少しマシになってると思うから、もうちょっと辛抱してね」
 話し掛けると内容が理解できたのか、鳥が羽づくろいを止めて一声鳴く。
 何となく初めてだったのに悪くないと言われた気がして、深花は微笑んだ。
「ふふふ……じゃ、おやすみ」
 ぽんぽんと首を叩いて、踵を返す。
 黒星号の前を通り過ぎると、後ろから髪を噛まれた。
「ぐえっ」
 ひどい声でえづき、深花は振り向く。
 黒星号が、髪を噛んで深花を引き止めていた。
「ん、なあに?」
 何歩か後戻りして髪を離した黒星号の前に立つと、ぶふんと鼻を鳴らされる。
「あなたも、ご主人様みたいに人をすぐ怒鳴るのかしら?」
 鼻面を叩いてやると、もっとしろと言わんばかりに軽く肩を噛まれる。
 しばらく馬とのコミュニケーションを楽しんでいると、宿屋側の出入口で物音がした。
 誰かと思って振り向くと、ジュリアスが立っている。
 その顔には、ぽかんとした表情が張り付いていた。
「黒星が人になつくなんて……」
「え?」
 深花の傍まで来ると、ジュリアスは馬の首に手をかけた。
「こいつは軍馬である事を差し引いても、かなり癇の強い馬なんだ。長年世話をしてる馬丁だって油断してりゃ噛まれるし、ティトーもフラウも顔馴染みなのに未だこいつに触れやしない」
 そんな馬が初対面の女と遊んでいるのだから、それは確かに驚くだろう。
「でも、遊んで構ってって言ってきたのはこの子よ?」
「……お前、女が好きなのか?」
 疑わしげなジュリアスの声に、黒星は鼻を鳴らしてすっとぼけた。
「まあいい。この調子なら、故障は心配しなくていいな」
 どうやらジュリアスは、馬のメンテナンスに来たらしい。
「ただ、蹄は見させてくれよ」
 横木の隙間から馬房に入ると、ジュリアスはしゃがみ込んで黒星の蹄を調べ始める。
「よし、と。じゃ、おやすみ」
 点検が終わると、ジュリアスは馬房から出てきた。
「じゃあね」
 挨拶代わりに鼻面を撫でてやってから、深花はジュリアスに続いて厩舎を出る。
「早めに寝ろよ。寝れなかったら、腕貸してやるから」
「ご心配ありがとう。たぶん大丈夫」
 厩番にランプを返し、深花は自室に引き取った。
 長い旅の間に持ち運ぶ荷物の中で、夜着が占める割合というのは人にもよるがたいていは皆無に近い。
 荷造りの際に受けたアドバイスに従い、深花も荷物から寝間着は省いていた。
 代わりに普段着から緩めのシャツとパンツをセレクトし、それに着替える。
 簡素な藁布団に包まると、深花は眠りに落ちていった。



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