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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・エザカール-23

 ラアトが待っている応接室には、ティトーが先に入った。
「いちおうボディチェックは済ませた。刃物や鈍器は隠し持ってない」
 中から、ジュリアスの声が聞こえる。
「深花。おいで」
 ティトーの許可が下りたので、深花は室内に顔を覗かせる。
 椅子に腰掛けたラアトの首筋は、フラウのナイフが狙いを定めていた。
「ミルカ様!」
 深花の姿を認めたラアトは、椅子から降りて床にひれ伏す。
「先日は大変なご無礼を働いてしまいました!申し訳ございません、誠心誠意謝罪いたします!」
 あれだけ憎々しげに接していた深花に対してひれ伏し、延々と謝罪を述べている……まさしく回心、という風情だった。
 どうすればいいのか分からず、深花は三人の顔を順繰りに見る。
「とりあえず、顔を上げな」
 ヘルプは、ジュリアスから出た。
「どんだけ謝ろうと、お前が深花を排除しようとした事実に変わりはない。その一点が払拭されない限りはお前を信用できないし、信用する気もない」
 ジュリアスの目配せを見て、深花は彼の隣に移動した。
 ジュリアスの隣は、ラアトから一番遠い位置である。
「まずは聞かせてもらおうか。その回心から察するに、バランフォルシュから接触があったみたいだが」
 ティトーの質問に、ラアトは頷いた。
「はい。あの後、僕は主犯格として独房入りしていたんですが……ある日、夢の中にバランフォルシュ様が訪問されました。そして、最大の味方となるべき神殿の人間が我が最愛の者に危害を加えようとするとは何事かと、厳しいお言葉を賜りまして……己の浅学と愚行を恥じるばかりです」
 どうやら、回心は本物らしい。
 そうでなければ、派遣された目付け役がラアトを独房から解放したりはしないだろうが。
「それで、その……」
 顔を赤くしたラアトが、ちらっと深花を見る。
「謝罪の証として、その、キスを……」
 ラアトの顔を見る限りそのキスは額や頬ではなく、唇にするらしい。
 三人から教えられているのだが、唇へのキスは恋人同士だとか情を通じる前段階としてしか行われない。
 それを求めるという事は……ラアトは、自分とそうなる事を望んでいる。
「あ……」
 次の瞬間、深花はジュリアスに抱き着いていた。
「わ、私、ジュリアスがいるから!そういうのはお断りします!」
 ジュリアスはそれを聞いて『俺ぇ!?』などと叫び、何だか色々なものを台なしにするような真似はしなかった。
「ま、そういう事だ。深花の事は諦めな」
 言って深花の体に腕を回し、これみよがしに唇を重ねる。
「ん……!」
 ティトーはやや頬を赤らめると、二人から視線を逸らした。
 フラウは感情を見せず、ラアトにナイフを突き付けてその行動を制限したままにしている。
「あ、ちょっと……!」
 ジュリアスの手が尻に伸びてきたため、さすがに深花は声を上げた。
「あの顔を見ろ。ラアトの奴、まだ納得してないぞ」
 ちらりと視線を走らせて窺ったラアトの顔は、不審が溢れている。
「俺達がそういう関係だってまぁだ信じられないなら、もうちょっと見せてやろうか?」
 ジュリアスは上体をかがめ、深花の顎を舐めた。
 その目は、挑発的にラアトを見る。
「あ……」
 尻を揉まれると体の硬直はたちまち解けてしまい、深花は全身をジュリアスに預ける。
「……火と土の人間が、恋仲なんてっ」
 うっとりと体を任せている深花を見て、ラアトは信じられないと言いたげに吐き捨てた。


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