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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・エザカール-22

「曹長殿は、いかがなさいましたか?」
 軍曹の質問に、深花は一瞬返答に詰まった。
「ほ……本日分の神機教練を終え、寮に帰る所だ。皆、訓練ご苦労」
 無難な答を捻り出し、深花はその場を後にする。
 何となく、今の軍曹には試された気がした。
 ミルカ歓迎派と非歓迎派の中間、くらいの意見層なのかも知れない。
 そんな事を考えながら歩いていたら道を間違え、知らない建物の裏手に回り込んでしまった。
「……あ」
 慌てて、来た道を戻ろうと踵を返す。
 その時、女の金切り声が聞こえた。
「一度でいいから抱いてくれ、って懇願したのはお前だろ?それだけで恋人面とは、勘違いも甚だしい」
 対する男の声は……ティトーだった。
「それはそうだけどっ……よりにもよって……!」
「くどい。お前の願いは叶えてやったんだから、もう俺に付き纏うな」
「っ……!」
 ばたばたばたっと足音がして、深花の目の前を女兵士が駆け抜けていった。
「……」
 一体何があったのかと思い、深花は女兵士が来た方へ足を向ける。
 建物と建物の隙間にちょっとした広間があり、そこに人影があった。
 一人はティトーだが、もう一人は分からない。
 なぜなら、相手方はティトーから抱き締められていたからである。
「ち、中尉殿っ……!」
 聞こえる声は、少年のものだった。
「っあ……!」
「続きさ、続き」
 粘着質な、舌を絡め合う音。
 見てはいけない場面を見てしまったと思い、深花はこの場を立ち去ろうとゆっくり踵を返した。
 全くのお約束だが、深花の足はそこで枯れた小枝を踏み付けてしまう。
 電光石火の早業で、二人がこちらを振り向いた。
「あ……」
「深花!?」
 おそらく、腕の力が緩んだのだろう。
 少年が、ティトーの腕を振りほどいて距離をとった。
 その服装から、少年は新兵に毛が生えた程度の階級と思われる。
「ち……中尉殿、自分はこれで失礼しますっ!!」
 脱兎の如く駆け出した少年の背に、ティトーが声をかけた。
「今晩は空けておくから、続きがしたかったら部屋にきな」
 声をかけたティトーは、深花の方へ向き直る。
「さて……まずい所を見られたな」
 心底気まずそうな顔と声で、ティトーは言った。
「見られてしまったならしょうがない。見ての通り、俺はそっちの対象の性別は問わない主義の持ち主でね。これを打ち明けるとたいていの人間は引いてしまうから、知らせるにしてもまだ先の話としてもうしばらく伏せておくつもりだったんだが」
 そんなティトーの穏やかでない胸中を察した訳ではないが、深花は首を振ってその見識を否定した。
「フラウさんの秘密に比べたら、ティトーさんが両刀遣いだったっていうのはものっすごくインパクト薄いです」
「あ……」
 色々考えていた事が全くの取り越し苦労だったと知らされ、ティトーは思わず髪を掻きむしった。
「何だろうな、俺が今感じてるしてやられた感は……」
「いいタイミングだったと思いますよ」
 にっこり笑って、深花は言う。
「マイレンクォードに乗るより先に知ってたら、感想は全然違っていたでしょうし」
「……だろうな」
 性癖を告白した事で気持ちが楽になったのか、ティトーの表情はずいぶんと柔らかくなった。
「そうそう。知らせがあるんだった」
 柔らかくなった表情が、浮かない顔に取って代わる。
「さっきの子が持ってきた話なんだが……ラアトが面会に来てるそうだ」
「……え?」
 深花の反応を見て、ティトーが苦笑する。
「確か彼は……ミルカに対する反逆を問われて、牢屋に入ったはずでしたよね?」
「その通りだ」
 頷いて、ティトーは言葉を付け足す。
「どうも、回心したらしい。独房入りして反省中に、バランフォルシュから叱り飛ばされたんじゃないかな」
「……」
 この世界の守護精霊は、ずいぶんフランクである。
「とりあえず、会ってみるか?いちおう、ジュリアスとフラウには召集をかけてあるぞ」
「……そうですね」
 フラウはもちろんの事、血気盛んなジュリアスの事だから剣の一振りも持って駆け付けていそうだ。



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