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さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

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第四章 昭和十一年〜桜〜-5

「いい加減にしろよ!!」「きゃ!?」
(…な、なに?)
次に来るはずの、髪を掴まれる衝撃に身構えていた身体。
それなのに、気が付けば私は誰かの背中の後ろに隠れる形となっていた。
広い肩幅。
凛として、よく通る張りのある声。
「…良太郎さん!?」
私の呼びかけには振り向かないまま、彼は続ける。
「男が三人も寄ってたかって何やってるんだよ。それに、こいつはお前らよりはるかに年も下だっていうのに」
「でもよぅ、良太郎…」
「でも、じゃねぇよ!こいつが、お前らの生活に何か迷惑掛けたか?こいつら親子の世話人はうちの親父なんだから、文句があるならうちに来いよ」
しばらくの沈黙。
重苦しい空気の中で、やがて足音と自転車の音は遠く離れていった。
「…大丈夫か?」
理不尽な暴力から助けてくれたその人は、相変わらず、こちらを振り向かないまま背中で尋ねてきて。
その声に、俯いていた顔を上げる。
斜め上に見える横顔は、何か気まずいのか真っ直ぐに前を向いたままだ。
「良太郎さん、なんでここに?」
「いや、親父と兄貴の後を追いかけていったら、走っていくお前が見えて…。その後をあいつらがついていくのも見えたから、ちょっと気になって…」
別に、悪いことをしているわけでも尋問しているわけでもないというのに、やけに歯切れの悪い返答が返ってきた。
そうして、振り返る。
意志の強そうな瞳に、真っ直ぐの黒髪。
日に焼けた肌。
彼は、百瀬町長のご次男である良太郎さん。
私より三つ年上の彼は、お兄さんの幸蔵さんと同様に、町長自慢の息子さんだ。
ただし、性格は優しくて穏やかな幸蔵さんとは…全くもって似ていない。
「ありがとうね、良太郎さん」
助けてくれた事実は本当にありがたかったから、丁寧にお礼を述べたはず…だったのに。
「――痛っ!なんで拳骨するのっ!?」
「お前は、可愛げも子どもらしさもないんじゃい!ああいう時は、素直に誰かに助けを求めるもんだ!」
性格…ぶっきらぼうの頑固者。
私の喧嘩相手である。


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