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百獣の女王
【ファンタジー 恋愛小説】

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百獣の女王 T-3

今、眉間に皺を寄せて俺の首を片手で締め上げている女傑は俺の姉の良子である。

良子姉さんは身長172cmの俺よりも背が高く、女性にしては肩幅が広い。そのせいなのか昔から力が強く、生まれついての凶暴な性格も相俟って大型肉食獣のような危険な雰囲気を持っていた。

そんな良子姉さんはバリバリのキャリアウーマンで大手弁護士事務所の若きエースである。クーガー女という言葉があるが、良子姉さんはまさにそんな女性だった。まだギリギリで20代の良子姉さんには言えない例えだが。

「げほ、げほ、良子姉さん。いつ来たの?」

尋常でない握力から解放された俺は、喉を押さえながら良子姉さんに聞いた。

「今さっき。これでも急いで来たのよ。そう言えば健吾は?」

「急患だとかでさっき帰った」

「そう。で慎矢は?」

「急に撮影が入ったとかでさっき帰った」

「タイミング悪いわねぇ。久しぶりに兄弟勢揃いかと思ったのに」

健吾とは俺より4つ年上の兄で真村家の長男でもある。大学病院に勤めている優秀な外科医だ。

慎矢は健吾兄さんとは逆に俺より4つ年下で有名大学の現役学生である。兄弟全員が美形揃い(俺を除く)であるが中でも慎矢は飛び抜けて容姿が良く、何年か前に街中でスカウトされてからずっと雑誌モデルを続けている。

ちなみに今日から晴れて新婚さんとなった双子の弟の茂は、近々警視庁に異動することが決定しているエリートキャリア組である。

派手な容姿に派手な肩書き。そんな兄弟達に対して俺は中肉中背のぱっとしない顔立ちで、このあいだ初対面を済ませた相手に再会しても誰?、と首を傾げられるほど存在感がない。

頭の出来も運動能力も並で、何をしても兄弟達に敵わず周囲からずっと比較されてきた俺は結構惨めな思いをしてきた。一時期はそんな自分の境遇に苛立って荒れていたこともあるが、今ではほろ苦い思い出だと笑うことができるようになっている。

「仕方ないさ。2人とも代えの利かない仕事だしね」

「その点あんたは気楽よね。週休二日だって? ナメてるでしょ?!!」

良子姉さんが八つ当たり気味に俺をなじった。良子姉さんはいつも何かしらの案件を抱えていて、満足に休日を取れないでいる。

プライドとか責任感が邪魔をしているんだろうな、と俺は思っている。

格好いい肩書だが、そのぶん気苦労の絶えない大変な仕事だ。

ちなみに俺は清掃会社に勤めている。元々掃除(というか家事)が得意ということもあってか天職のように感じている。


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