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百獣の女王
【ファンタジー 恋愛小説】

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百獣の女王 T-1

俺はいつもネコを追いかけていた。

でもどんなに手を伸ばしても捕まえられない。

捕まえたと思ってもすぐに手からすり抜けてしまう。

何度も諦めようと思ってもその姿に魅了されて。

誰かの手の中で愛らしく鳴いている姿にいつも遣る瀬なさを感じる。

それでもたまに振り向いてくれることが嬉しくて。

いつかは、きっといつかはと、覚めない夢を見続けている。





俺の隣の席には綺麗に着飾った幼馴染、綾菜が居る。

丁寧に染めた金髪をくるりと巻いていて、それが綾菜の幼い顔によく似合っていた。

「ねえ」

綾菜のネコのように大きな瞳がくるりと俺を見た。

「やっぱり悔しい?」

綾菜は披露宴会場の主役に目を向けた。

会場のメインテーブルに座っているのは、俺の双子の弟である茂とその妻となった美佐子。

「まあ悔しいことは悔しいけど、幸せそうだしいいかって思ってる」

俺は本心からそう言った。

「つまんないの」

綾菜は俺から興味をなくしたのか、携帯を取り出してメールを打ち始めた。

これから俺の義妹となる美佐子は俺の元カノでもある。

高校時代に何度も話しかけ、紆余曲折の末にようやく恋人になってくれた。が、付き合って間もなく美佐子は弟の茂に一目惚れしてしまった。

元々は俺がしつこく言い寄って、根負けしたように交際を承諾してくれたようなものである。だというのに美佐子は泣きながら何度も俺に別れて欲しいと頭を下げてくれた。

あの時涙ぐんでいた彼女は今とても幸せそうな笑顔を浮かべている。

本当に良かったと俺は改めてそう思ったが、心の奥底にはまだ罪悪感が残っていた。



つまんないの。



綾菜が素っ気なく言った言葉が俺の頭の中で鳴り響いた。

ふと、俺は美佐子を紹介した時の綾菜の顔を思い出す。

あの時も、綾菜はどうでもよさそうな表情をしていた。

「あーぁ、私も結婚したいな〜」

綾菜が何となくといった様子でつぶやいた。

「いい人いないの?」

俺は怖かったが聞いてみた。

「うん。この前に別れちゃった」

あっさりとしていた。

ほっとしたが、寂しくもなった。

一体どうすれば、いやどんな男ならこの自由奔放なネコを繋ぎ止めることができるんだろう?




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