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God's will
【その他 官能小説】

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GOD-2

「嘘だよ。辛かったね、ルカ。バカは俺のほうだよ」と言って、僕はまたルカに思いを打ち明け、としてルカを支えることが出来なかった自分が憎くてたまらなくなって、それでいつの間にか涙を流している。「ルカ。俺さ、ルカのこと連れて行きたかったんだけど、さっきこの子と約束しちゃったんだ」と言って僕は胸に抱いていた赤ん坊に視線を向ける。「こいつがさ、ママを連れて行かないでって言うから、だから俺はルカのこと連れて行けないんだ。こんなはずじゃなかったんだけど。でも、どっちかしか選べなくてさ」

「うんうん。それでこそ紫音だよ。ちゃんと分かってる」ルカはにっこり笑顔を作る。そして僕の胸に抱かれていた赤ん坊を呼ぶ。「ままー」と言って赤ん坊は両手を伸ばし、ルカの胸に抱かれる。

「よしよし」ルカは赤ん坊に頬ずりをして、頬にキスをする。そしてぎゅっと抱きしめ、声を出さずにちょっと泣いて、すぐに泣くのをやめる。そして言う。「あんたは紫音と一緒に行きなさい」

「えー。やだー」

「やだじゃないの」

「だってー。ままいいー。」

「ママはずっとここにいるから、ちゃんとあんたが頑張って生きてくるの待ってるから。だから紫音と一緒に行って。あの人なら絶対あんたのこと幸せにしてくれるから」

「やだー。ままいいー」と言って赤ん坊は泣く。「ままといっしょにいるー」

「ねえ、よく聞いて。ママは間違っちゃったの。パパのことを悪者だってあんたには言っちゃったけど、それは違うの。ママも同じく、あんたに悪いことしちゃったの。でもね、紫音がママとパパの間違いを正しに来てくれたんだよ。人ってね、正しいことをしなきゃいけないの。失敗もするし、間違ったりもするけど、一番大切なときには、やっぱり正しいことをしなきゃいけないの。不安とか色々あっても、それを乗り越えて正しいことをしなきゃいけないの」ルカは赤ん坊が潰れてしまうんじゃないかというくらい強く強く赤ん坊を抱きしめる。そしてこらえていた涙が彼女の頬を伝い落ちる。

「やだー。ままー」

「紫音」と言って、ルカは僕に赤ん坊を渡す。赤ん坊は僕の腕の中で暴れる。やだー。おじさんやだー。きらーい。ままいいー。とわんわん泣いている。本当に連れて行っていいのかな、とちょっとだけ迷う。

「大丈夫だから」とルカが僕の不安を読み取って言う。「きっと紫音がしようとしていることが正しいことだから。大丈夫。誰かが何かを言っても、絶対絶対正しいことだから。紫音、その子をよろしく。ここまで来てくれてありがとう。本当にありがとう」

「うん。じゃあ、行くよ」

 帰り道へはルカが案内してくれる。森の中を少し歩いたところに大きな木が立っていて、そこにはドアがついている。小さなドアだ。ドアノブは銀色。僕はドアの前に立ち、そしてルカの方を振り返る。

「もう会えないんだよね?」と僕は訊く。

「うん。多分ね。多分もう誰も紫音を招いたりはしないと思う」

「そっか。じゃあ、本当にさよならだね」

「うん」ちょっとだけ寂しそうな笑顔を、ルカは僕に向ける。

「じゃあね。行くわ」と僕は腕の中で暴れる赤ん坊を落っことさないように、ちゃんと抱きかかえて言う。

「さよなら。紫音、元気で」

 僕は頷き、銀色のドアノブを回す。そして中に入る。僕が中へ入り込んでしまうと、ドアはぱたんと閉まる。そしてそのドアが開くところを見ることは、もう二度とない。




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