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『屋上の青、コンクリートの灰』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『屋上の青、コンクリートの灰』-12

「……ッおまえなんか大っ嫌いだ」
 喉の奥から出した声が、つかえて震えた。
 情けないことにこんなことで泣きそうになってる。
「勝手なんだよ。おまえがなんか言えば言うこと聞くとでも思ってんのか。っふざけんな、振り回すのもいい加減にしろよ!うんざりだよ、おまえになんか付き合ってられるか。……っく、大嫌いだ、もう石井なんか顔も見たく──……」

 一瞬だった。石井が近付いてきて、殴られる、と思ったらキスされていた。怒ってるみたいな、乱暴なキスだった。


「……悪かったな」

 静かに、怒った。
 重なる三年前と同じ表情。けれど、あの時みたいに腕を掴んで引き止めてはくれなかった。三年前とは違うもの。それだけを残して、石井は僕を置いて出て行った。

  
 石井はもうきっと、自分には近付いてこない気がした。
 途端に喪失感が自分を包む。涙が出てきて、足元の感覚がなくなった。崩れてその場に座り込む。

 石井はもう自分の隣には来ない。
 そう思うと、行くなと追いかけそうになる。それどころか、捕まえて、離したくないとすら思った。
 たったいま伊藤を泣かせた奴なのに。いつも横暴で、わがままで、平気で人を振り回す、そんな奴なのに。
 

 離したくない。行くなよ、なんで行くんだよ。


 そう思ってしまう自分にひどく、困惑した。





 「越智」と僕を呼ぶ低音の声を、聞かなくなった。それから、僕の隣に石井の姿を見ることがなくなった。
 これでいいのだ。いつまでもいつまでも、石井とつるんでてもしょうがないんだから。これでいい。そう自分を納得させては、石井がいない生活に溶け込もうとした。
 だけど不意に視界に石井が入る。そのたびに、苦しくて苦しくてたまらない。視界に入らなくても、ふとしたことで石井を思い出してしまう。自分の靴箱の上にある石井の靴、時に聞こえる笑い声。気にしたくないと思えば思うほど、嫌というほど石井の存在を思い知らされた。


「越智」

 後ろの声に呼び止められる。
 石井かと思ってドキリとした。
 だけど振り向くと、そこには気怠げに鞄を背負った早坂が佇んでいた。

「なにしてんだおまえ」
「……伊藤を待ってんの」
「あっそ。おまえら仲いいよなー」
「まあ、そうかも」
「でも仲いいつったらおまえと石井も仲いいよな」
 石井の名前が出た途端に、気持ちが重苦しいものになる。
 こんなタイミングで、出さなくてもいいだろうに。
「……今はそうでもない。こないだ喧嘩したし」
「あー…こないだの。……ふぅん。でもさぁ、越智そんな昔っから喧嘩するくらい石井と仲よかったっけ?」
「別にそんないいって程じゃなかったよ。テスト前とか、勉強見てただけで……ほら、あいつ赤点ばっか取ってたみたいだから」
「赤点?」 
 俺の言葉に、早坂は首を傾げた。
「なにそれ初めて聞いた。でも石井確かに授業聞いてねえけど、なにげにあいつ勉強できるよ」
「そんなわけない。いつも俺が一緒になって……」
「そうなんだ。まああいつ寝てばっかだからな。でも俺石井が誰かに勉強教わってるとこなんて見たことねえよ。それに俺、あいつ授業聞いてなさすぎだから、親切でたまには石井に教えてやろうと思ったらさ、絶対だめだっつうんだよ。教わる奴決めてるから、いらねーって。だから俺女かと思ってたけど、そっか、おまえだったんだ」
 無頓着に早坂が告げた。
「ふぅん。愛されてんね、おまえ」




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