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『屋上の青、コンクリートの灰』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『屋上の青、コンクリートの灰』-11

「ちょっとそこよぉ、甘い雰囲気出さないでくんない?すんげームカつくから」
「うわ出た劇団ひとり」
 伊藤が早坂を指差す。不憫にも早坂は先週彼女と別れたばっかりだ。ゆえに一人。
「うわーおまえ可愛くない!悪かったなひとりで!どうせいねぇよ彼女!ひとりだよ!あーーー俺も欲しいーー甘い存在欲しいーー。いとーッ!俺にかわいい子紹介しろ!」
「そんなんだから振られるんだよ早坂。ねー朝陽」
「ねー」
「だーっ、マジムカつく。聞いたか石井!今の!それにこいつらこれから越智の部屋行って乳繰り合うみたいですよっ」
 早坂が、後ろにいた石井に話しかけた。
「……あっそ」
 石井は俺らを見ずに、そっけなく相槌を打った。
 石井にとってはきっとどうでもいいことなのだ。
「もーうるさい早坂。朝陽、帰ろ」
「ああ、うん。じゃあな石井」
「……あぁ」
 石井はいつになく不機嫌そうだった。それを気遣ってか、伊藤が石井に喋りかける。
「石井って朝陽と仲いいよね。意外だけど、なぁんか合ってるよねー朝陽と石井って」
 伊藤が笑って石井の肩をポンポンと叩く。その手を、石井は振り払った。
「うるせぇな、触んな」
 石井の声に、クラスがしんと静まる。
「うざい、おまえ」
 ピン、と空気が張り詰めるような、冷たい声だった。
 僕の視界に入ったのは、そのまま教室を出て行く石井と、傍らで泣き出した伊藤だった。

 

 冗談じゃない。ふざけんな。なんでおまえはいつもいつもそうなんだよ。
 そう言って殴ってやろうと思った。それをするのが伊藤に対する義務のように感じたし、いつまでたっても勝手な石井に、唯一ぶつけられるものな気がした。
 ただ、周りにとやかく言われるのは嫌だったから、誰もいない視聴覚室に石井を連れ込んだ。
 特に抵抗するでもなく石井は付いてきた。でも、尚も石井の不機嫌そうな態度に余計腹が立つ。

 暗い視聴覚室に入り、電気を点けるより前に僕は石井に詰め寄った。

「石井、謝れ。伊藤に謝れ」
「朝陽」
 唐突に呼ばれる。石井はその響きを確かめるように俺を見た。
「朝陽ねぇ……似合わねえ。おまえは越智だろ」 
 その言い方にカチンときた。
「……うるさい」
「朝陽とか呼ばれんなよ。呼び捨てにさせんな。……あと」
 ぐっと、制服の襟をを掴まれた。
 そのままの勢いで壁際に押される。背中が軋んだ。
「……っな、」
「行くな、ムカつくから」

 なんだそれは。

「ッなんでだよっ!石井には関係ないだろ!」
「いいから。……行くな、俺以外の奴のとこ」

 全然3年前と変わらない。
 どんな思いで、俺が、どんな思いで……
 ああ、石井とはどうしてこうなってしまうんだろう。相性が悪いんだ絶対。根本的に違う。そうに決まってる。モンちゃんとは絶対喧嘩しない俺。性格もてんで違う。なのに、なのに……

「越智」

  名前を呼ばれただけで、ぐずぐずだ、僕は。嫌だ、そんな自分は。嫌なんだ。



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