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さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

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第三章 団子と朝顔-6

「はい、では今週の折り紙教室を始めまーす」
胸に『ボランティア 富澤』と書かれた名札をつけたおばちゃんが、集まった数人のお年寄りを前にニコニコしながら声を掛ける。
テーブルの上には色とりどりの折り紙や画用紙が並んでいて、その端の方で、和泉さんに引っ張られていった俺が所在なしげに座っていた。
隣にいるばぁちゃんだって相変わらず俺のことわかってないみたいで、和泉さんと一緒に折り紙選びなんて始めちゃったからなおさら孤独な俺。
「あの…俺は、何をすれば…いいんでしょう…?」
「あ!ごめんね、亮くん。皆さん、今日の折り紙教室は、百瀬さんのお孫さんの亮くんがお手伝いに来てくれました!」
「あら、そうなのー」
和泉さんの声に合わせて、何人かの参加者さんからは拍手なんてもらっちゃったけど…いやいや、俺、折り紙なんて出来ねえぞ。
「ちょ、和泉さん。俺、折り紙とか無理…」
「だーいじょうぶよ。亮くんに何か作ってほしいんじゃなくて、百瀬さんや他の参加者さんたちが折ったり切ったりするのを手伝ってあげてほしいんだ。あとは、話し相手。皆さん高校生と話す機会なんてあんまりないから、最近の流行りとか、好きな女の子の話しとかしてよ。高校生の男の子の頭の中なんて女の子のことばっかりでしょ〜」
(こ…こやつ…)
片手をピラピラさせながら、和泉さんはあっけらかんと俺に告げた。
正直に言うと、彼女のことは小柄で一生懸命なかわいい職員さんってちょっと思っていたけど…前言撤回。
いい加減でおばはんな本性見たり。
「…なに?」
「いや、オンナの人って恐いなぁって」
「はぁ!?何、悟りみたいな事言っちゃってんの!…ほら、百瀬さん折り紙始めてるよ」
気がつけば、さっきまでぼんやりとしていたはずのばぁちゃんは、人が変わったかのように真剣な表情で折り紙に取り組んでいた。
傍らでは、ボランティアの富澤さんが手ほどきしてくれている。
「あ、すみません。俺、やります」
「あ、そう?じゃあ、よろしくね。でも、百瀬さんにこんなかっこいいお孫さんいたのねー。百瀬さん、今日は亮くん来てくれてよかったねぇ!」
富澤さんは、後半の部分はばぁちゃんが聞こえやすいようになのか、少し大きめの声で話しながらばぁちゃんの肩に手を置いた。
その感触にちょっと驚いたのか、手を止めゆっくりと顔を上げたばぁちゃんは、しばらく俺を見つめた後に富澤さんへと微笑んだ。
その笑顔は、元気だった頃のばぁちゃんそのままで。
(ばぁちゃん…)
俺の胸に、懐かしさが込み上げる。
そういえば、幼い頃もこうして折り紙を折るばぁちゃんを眺めていたんだ。

「ねぇ、百瀬さんのお孫さんはおいくつ?」
「え?」
俺の左に座るばぁちゃんの作業を手伝っていたら、突然、右隣にいた人から声を掛けられた。
きれいな白髪をきちんと整え、首にはスカーフを巻いたきれいで上品そうなばぁさん。
でも、よく見れば座っているのは車椅子だった。
「あ、来月17歳になります。高校二年生です」
「そうなの。私は、おばあちゃんと同室の杉山と申します。ねぇ、百瀬さんはこんないいお孫さんがいて幸せねぇ」
杉山さんは、俺の向こう側で折り紙を続けるばぁちゃんをのぞき込むように声を掛ける。
自分に話しかけられていることに気がついたのか、再び手を止めるばぁちゃん。
「でもね、この子は小さい頃はやんちゃ坊主でねぇ。散々に手を焼かされたんですよ」

(……え?)
さらり、と。
ばぁちゃんは、ごく当たり前のことだと言わんばかりに杉山さんの言葉を受け、そして、その後の言葉を続けた。
それは、とてもとても自然すぎる流れで、俺は一瞬、今のばぁちゃんの心身状態や置かれている現実などの全てを忘れてしまうくらい唐突に起きた奇跡だった。


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