投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

さよならの向こう側の最初へ さよならの向こう側 7 さよならの向こう側 9 さよならの向こう側の最後へ

第三章 団子と朝顔-1

第三章 団子と朝顔

暑い。
とにかく、暑い。
ものすごく、暑い。
今年の夏は例年にない猛暑だとか何とか、今朝もニュースでお天気お姉さんが話していたけど(でも、これって毎年言ってねぇ?)そんなくそ暑い八月の午後に…なんで俺ってば猛ダッシュでチャリンコなんか漕いでるんだよぉぉう!
さっきから、流れた汗が目に入ってめちゃくちゃ痛いわ、首やら腕やらは紫外線にやられまくりだわ…あ、ロー○ン発見。
マジ、もう無理っす。

俺は、ようやく見つけたコンビニに這々の体でなんとか入店した。
冷房の効いた店内は、砂漠の中のオアシスのよう。
身体中の細胞が生気を取り戻していくのを感じる。
(あのままだったら確実に干からびてたっつーの)
雑誌の陳列棚に目をやった後、乾いた喉を潤す命の水…もといスポーツドリンクを物色しながら、俺は、そもそも干からびる危険(?)を冒すような羽目になった夕べのやり取りを思い返していた。


「おにぃ、おばあちゃんに会ったんでしょ?」

自宅で食うより二時間も早い武夫伯父さんちの夕食が終わった後、親父と俺にあてがわれた二階の客間で、俺は毎週欠かさずチェックしているバラエティー番組を観ていた。
…いや、正確には眺めていたと言った方がいいのかもしれない。
いつも、アホ顔して大笑いしながら観ているはずの番組なのに、今日はちっとも面白くねぇ。
理由は…わかってる。
頭の中、繰り返し浮かんでは消えるのは、昼間のばぁちゃんの姿ばかりだった。
加えて『虹の橋』での俺の様子を親父か武夫伯父さんから聞いたらしいお袋たちは、まるで腫れ物に触るかのようにして俺に関わり、そして、それはなおさら俺を苛立たせると同時に情けなさを煽った。
でも、そんな不穏な空気の中で唯一の直球をぶつけてきたのは…妹である加奈だったんだ。

「会ったよ」
「それだけ?」
「…認知症になってたよ」
俺のこと、全然わからなかったよ。
どっかのじぃさんのクッキーを、その手から盗んで食おうとしてたよ。
俺と親父の名前を混同して呼んでたよ。
…言いたいことはたくさんあったけど、俺は無理やり全てを飲み込んだ。
だって、いくら最近は生意気で大人びてきたっていったって、加奈はまだ15歳…義務教育中の中学生だ。
そんな妹に、ばぁちゃんのあんな姿を伝えるわけにはいかないよ…。
「あれ?おばあちゃん、おにぃのことちゃんとわかった?」
「…はぁっ!?」
「いや、最近のおばあちゃんって、加奈のことをおばあちゃんの妹の茂子さんと間違えちゃってるんだよね〜。だから、てっきりおにぃのこともわからないかと思ってたんだけど」
(これって…)
「お前、ばぁちゃんがわけわかんなくなっちゃったこと、知ってたのかよ…」
「うん」
目の前の妹は、気持ちいいほどあっさりと肯定してくれた。
(脱力…)
俺の気苦労は一体…。
「だって、加奈は毎年こっちに来てたじゃない。遊びまくって、誘っても見向きもしなかったおにぃとは違うよ」
今となっては触れてほしくない、嫌なとこをチクチクと突いてくるヤツ。


さよならの向こう側の最初へ さよならの向こう側 7 さよならの向こう側 9 さよならの向こう側の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前