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ユメマボロシ
【ボーイズ 恋愛小説】

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ユメマボロシ-2

「悪夢を見たんだ」
俺は伸ばされた腕の中に、頭を預けた。
胸の方へ引き寄せられる。
頬に暖かさと規則正しい鼓動。
優しく頭を撫でられた。
俺は瞳を閉じて、鼓動に聞き入った。
悪夢が現実になりつつあることを感じた。
でも、それは駄目だ。絶対に、阻止しなければならない。
俺は、俺を裏切ってはいけないのだ。
俺はきつくナイフを握り直し、もう片方の手で目標を探った。
相変わらず頭を撫でられ、眼を閉じ鼓動に聞き入りながら、ナイフを持った手で俺は、目標の首筋を、力一杯切り付けた。
撫でていた手が止まり、痙攣が起こる。
「……ショ…ウ……」
弱々しい声を、遠くで聞いた。
ナイフを離し、胸に頬を押し付けたまま、痙攣を続ける身体を抱きしめるようにして、俺は身体を楽に伸ばす。
俺は瞳を閉じ、鼓動だけを聞いていた。
それは、とても心地よい響きだった。
その最後の音が止むと、俺は音の余韻に浸りながら、再び眠りに落ちた。

夢のない眠りから目覚めた。
付けっぱなしだった照明を消しながら時計を見ると、すでに午後一時を回っていた。
俺は硬い枕から、身体を起こした。
不自然な体勢で眠っていたために、身体中が痛かった。
首を捻って、骨を鳴らす。
立ち上がりながら、伸びをした。
ちらりと、自分が眠っていたベッドを振り返る。
想像していたほど、酷くはなかった。
全く、綺麗なもんだ。
はねのけた毛布が、うまい具合に壁となって、血が飛び散るのを防いでいた。
「掃除は、楽そうだな」
力の抜けた気分で俺はそう呟いた。
身体に悪寒を感じ、俺は足早にバスルームへ向かった。
洗面台の鏡に、裸の俺が映っていた。
肩と髪が、血で汚れている。
鏡の中の自分に、綺麗に微笑んだ。
お前は、俺だけのものだ。
そうだろう?
大丈夫、悪夢はもう見ない。
根源は退治したんだ。
俺は、お前だけのものだ。
俺は、もう一度綺麗に微笑んで、バスルームの扉を開けた。
熱いシャワーを頭から浴び、身体を暖める。
少しだけ赤く色づいたお湯が、排水溝に吸い込まれて行く。
その流れを見ているうちに、昨夜の記憶がだんだんと俺の中に甦ってきた。
昨夜の、悪夢……。
夢の中、俺が交わっていた相手は、俺ではなかった。
そんなことありえない。
俺が愛しているのは俺で、あの身体はただのダミーに過ぎないのだから。
俺が愛しているのは俺だけ。
アイツは、憎いだけの存在。
それなのに、そうだったはずなのに、アイツは俺の夢の聖域を侵した。
俺の心の中にまで入り込んで、俺の純愛を踏みにじったのだ。
許せなかった。
俺の愛は、アイツに奪われてしまった。
昨夜の出来事は、それを取り返しただけ。
ただ、それだけのことだ。
元に戻って、ハッピーエンド。
そうだろう?
気に病むことなんて何もない。
俺は熱いシャワーを冷水に切り替え、アイツの残像が消えるまで、それを浴びていた。


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