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ユメマボロシ
【ボーイズ 恋愛小説】

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ユメマボロシ-1

一瞬で暗闇に引きずり落とされるような、そんな、眠りに落ちる瞬間が好きだ。
底のない暗闇へ、身体が下降して行く。
人が死ぬ前には、今までの記憶が、走馬灯のように頭を駆け巡ると言うけれど、暗闇に落ちて行くのが眠りなら、さしずめ夢というものは、死ぬ前に見る走馬灯の記憶のようなものだろう。
身体が叩きつぶされる地面には、いつまでも到達しない。
夢に終わりはない。
ならば夢を、いつまでも見ていたいと思った。
現実では実現不可能なことでも、夢の中では実現できる。
俺は自分を愛していた。
自分自身と、愛し交わり合う夢を見始めた頃から、俺はくだらない遊戯を、双子の弟ユウとやり始めていた。
一卵性の双子故に、どこからどこまでも、完璧に同じな俺達の姿。
自分と同じ美しい姿が、俺の傍にはあった。
だが、同じなのは器だけだ。
ユウはどうしたってユウで、俺にはなれなかった。
俺が自分自身の幻をユウの上に重ね合わせることができるのは、性行為の中だけでだった。
ユウの身体を触っていると、自分自身の身体を触っているような錯覚を抱ける。愛撫に身悶えるユウを見ていると、あたかも自分が、その愛撫を受けているような気持ちになれる。
性行為の最中にだけ、俺はユウを、自分に置き換えることができた。
しかし、日常生活のユウは、俺にとって疎ましい存在だ。日常の中のユウは、俺に成り代わることがない。
自分と同じ姿であるのに、それが俺でないことが、俺には許せなかった。
俺は、ユウが憎い。
この姿は俺だけのものだ。誰にも渡しやしない。
俺だけが、愛することが相応しい。
ナルシシズムなんかではない。これは純愛だ。
愛した対象が、自分自身だったというだけだ。
ただ、それだけだ。


苦しかった。ただ苦しかった。
幸福な夢であったはずのそれが、違ってしまった。
悪夢から目覚め、俺は喘いだ。
身体を起こし、胸を押さえる。
何故だ…?
暗闇に慣れた眼で俺は、俺の右側で眠っている俺の分身とも言えるものを見た。
子供のように無防備な白い寝顔。
こいつだ。こいつの所為だ。
身体中の血が沸き立った。
こいつが俺を……。
憎くて憎くて、たまらなかった。
俺はベッドから出て、机の引き出しを探った。
冷たくて硬いものに指が触れ、俺はそれを握りしめた。
鞘を外すと、銀色のものが暗闇に浮かび上がった。
それを持って、俺はベッドの上で眠っているものに、眼をやった。
そして、ゆっくりと近付く。
そいつが被っている毛布を剥いだ。
白い裸体が、現れる。
その身体は夢の中のそれと重なり、俺の中に渦巻く憎しみが、抑えきれずに暴れ出した。
夜の冷気が寒いのか、それは小さく身じろいだ。その上に、馬乗りになる。
…どうする…?
自分の下の身体を見つめた。もう一度、よく見る必要があった。
俺は枕元の照明を付けた。
柔らかな光の中に、朧気だったものがはっきりと浮かび上がる。
完璧に美しい身体。
俺と同じ身体。
だけど、これは俺ではない。忌むべき存在だ。
俺を惑わす、悪魔だ。
ゆっくりと、それが瞳を開けた。
眩しさに眼を細める。
「……ウ…?」
唇が俺の名前を呼んだ。
そして、俺の方へ手を伸ばす。
「…どうしたの…?」
そう言いながらそいつは、眩しさに耐えられず眼を閉じる。


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