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God's will
【その他 官能小説】

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狂気の夜-3

やがて立ち上がった僕は寝室の明かりをつけ、薄いピンク色のカーテンを閉めた。ルカの口からはみ出していた舌を口の中に戻し、その目を閉じた。ルカの両腕にはかなりの量の血液が傷口を中心に広がるようにこびりついている。シーツにも所々に血の跡がある。バスルームへ行ってタオルを濡らし、ルカの両腕を拭く。血はすでに乾いていて、少し強めに拭かなければならなかった。明かりの下で見て初めてルカの手首に無数の傷跡があったことに気がつく。両方合わせて五十七本の傷痕がある。大体の傷は三センチくらいの長さで、中には縦に長く八センチくらいのものも三本ある。五十七本の中の四つはさっきまで血の滴っていた傷口で、ぱっくりと開いていてまだ赤々としていて、深さは二ミリくらいだ。

僕には少なからずリストカットについての知識がある。思春期だった頃に自分自身が生きている事の意味について考えていた時期があった。一体自分は何のためにこの世に生まれ落ちたのだろうというようなことだ。そう考えたとき、自然と生と死について思い巡らせることにも繋がり、そして自殺についても興味を持ち始めた。とはいえ、僕自身に自殺願望があったわけではない。確かに僕が思春期の頃も父親のアルコール中毒に付随して多くの問題があったが、それが僕に自殺願望を持たせるようなことは特別なかった。そして、丁度その時期に、ただの興味として僕はリストカットについて調べたことがあった。

リストカットをする人間は大半が独身女性で、その中には、そうすることで自分の存在意義を確認しているタイプの人がいる。流れる血を見ると落ち着くんだ、というような人たちがいる。そうすることでなんとかこの世界で生きていこうとしていて、その手段がリストカットだったというだけの話だ。僕が煙草に依存しているのと似ているかもしれない。でも、彼らの多くはいつかそこから脱却しなくてはと考えている人が多い。止めよう止めようと思っていて、それでも手首を切ってしまう事があるのだという。それは、ドラッグのようなもので、リストカットをした直後に一時的に精神的苦痛が緩和されるが、また新たな精神的苦痛を味わったとき、その救いを求めるようにして再びリストカットをするという常習化が見られることが多いからだ。そもそも、薬物乱用もリストカットと並び自傷行為として認識されるのだから、その二つに似通った点があってもおかしくはない。そもそも、その動機は極めて近いところにあるのかもしれない。

また、あるいは自尊心の低さからリストカットをする人たちもいる。どうして私は産まれてきてしまったのだろうと彼女たちは考える。自分の存在が自分自身で許せなくて、それで誰かに謝っている。ごめんなさい、ごめんなさい、と謝りながら、手首を切る。でもその懺悔は誰の耳にも届かない。また、ある時には手首の痛みと、その代償について考えている。自分の犯した罰とその償いについて考える人たちもいる。自己が壊れないためにそれをして、それをしている自分が壊れていると思う人もいる。


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