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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件
【推理 推理小説】

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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-9

「ふうん、そうなんだ……」
 すると今度は意味深な笑顔を浮かべだす真帆。
「な、なにがそうなのよ」
 怯む梓に、真帆はしてやったりとほくそ笑む。
「真琴君ねぇ……」
「何が言いたいのよ!」
 声を荒げるも及び腰。
「言ってもいいの?」
「どうぞ……」
 さらに小声になり出す始末。
「梓は……、真琴君のことがぁ……」
「ダメダメ! やっぱ言わないで!」
 にやりと笑う真帆の口を慌てて閉じる梓。
「あ、五十嵐さん、ここに居たの? もう直ぐ第二幕のリハーサルだから準備して」
 そこへ飛び込んできたのは由真の凛とした声。彼女は急かすようにジェスチャーをすると、上手側に走る。
「あーもう……、とにかく第二幕が終るまでにミルクルを用意しておいてね。ストロー付きよ。お願いね、真琴君!」
 とってつけたように「君」とつける真帆は、ドレスの裾を持つとパタパタと駆けて行った。
「なんか、役柄とは全然イメージの違う子ね……」
 最中蚊帳の外に居た澪がそう呟くと、梓はため息をつく。
「あのね、本当はあそこまで荒れる子じゃないのよ。ちょっとあって……」
「あ、さっき言ってた役柄のこと? 主演がどうのっていうの」
「うん。あのね、今回の歌劇の演目「冴えない老猫」の主役は真帆なんだけどさ、パンフレット見てよ……」
 言われるままにパンフレットを見る二人。そこには確かに「冴えない老猫」とあるが、真帆は出演者一覧に顔を並べるだけで、別段ピックアップされている様子はない。
 メインには「ピアノ弾き語り、喜田川久美」と大きく描かれており、二十代前半の女性が柔和な笑顔でピアノを弾いているのがある。
「つまり、主演なのに小さく扱われるのが我慢できないってことかしら?」
 澪がそう言うと、梓は無言で頷く。
「あの子、最近市のコンクールとかで大賞受賞したりで、有望株とされてるのよ。もちろん実力とかもあるし、それなりに可愛い子でしょ? まぁ、そのせいで変なファンもついてるけどね」
 またも言い難そうになる梓は、一度頷いてから続ける。
「えと、あんまり大声でいえないんだけど、この合唱団のスポンサーっていうのがさ、この喜田川久美さんのお父さんなの。それで、条件ってわけじゃないんだけど、娘の晴れ舞台を作って欲しいらしくって……」
「なるほど……、スポンサーの意向に従ったわけね……」
 澪はうんうんと頷き、したり顔になる。
「それも確かに原因なんだろうけど、実はさ、真帆のファンてのも問題で……」
「まだあるんだ」
「市のコンクールの時の動画がなんだか動画投稿サイトにアップされてたのよ」
「へぇ、でもそれが?」
 今一つぴんと来ない真琴。彼の想像では真帆が歌っているであろう映像がネットで公開されているというもの。
「ローアングルっていうのかな……。ちょっとカメラの視線がおかしいのよね……」
「ローアングル? それって……」
 真琴が余計な質問をしそうになったところで澪が彼の口を抑える。
「つまり、ファンっていうか……」
「まぁそんなところなの。多分今日もそういうのが居ると思うし、真帆はああいう意地っ張りな子だから気勢張ってるけど、本当は怖くて悔しくてたまらないと思うのよね」
「ふうん。なるほどね……」
 ようやく真琴も納得する。そうなれば彼女のワガママっぷりも頷けるというもの……かは別として、彼はひとまず一階へ抜ける階段に走る。
「真琴、どこ行くの?」
「うん、第三幕までにはまだ時間があるでしょ? ちょっと買い物にいってくる」
 先ほどいわれたミルクルをストロー付きで用意してあげる程度、苦にはならない……。


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