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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件
【推理 推理小説】

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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-10

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 大学近くのコンビニエンスストアでリクエストの品を購入した真琴は、再び欅ホールへと向かう。
 ロビー正面は気の早い観客や関係者でごった返しており、入ろうとすると係りの人に呼び止められてしまう。
「すみません、僕、今日のコンサートのスタッフで……」
 そう告げる真琴だが、腕章も首賭けのパスも持たない彼は門前払い。仕方なく非常口へと回ることにしたが……。
「……今日って本当に真帆ちゃん主演? なんか年増の婆がいるんすけど?」
「……にしてもドレスの裾長すぎね? 真帆ちゃんのおぱんちゅ見れないじゃん……」
 非常口付近で誰かの話し声が聞こえたので、真琴は慌てて身を隠す。そしてそろりと声の方を見ると、太めの男達がパンフレットらしきものを見ながら談笑しているのが見えた。
 ――もしかして、この人達が真帆さんの?
 見た目で疑うのはよくないと思いつつ、会話から黒であるとも予想できる。疑問なのは彼らが非常口付近でたむろしていることだが、それもすぐに理由がわかる。
 彼らは非常口を開けると、そのまま欅ホールへと入っていく。
 ――開いてたんだ……。
 真琴もしばらく待ってから非常口へと向かい、彼らと鉢合わせないように遠回りして上手を目指した。

−:−

「お待たせ……」
「あら遅かったじゃない。どうかしたの?」
 息を切らせながら上手に戻ってきた真琴に、澪と梓がお出迎えする。
「うん、ちょっと通してもらえなくて……」
「まだ開場だし、制服姿だけどお客さんと思われたのね」
 くすっと笑う梓に頭をかく真琴。
 時計を見ると十時半。スタッフの石塚達弘が舞台見取り図を持ちながらやってくる。
「学生ボランティアの……葉月君と香川さん、もう直ぐ第二幕終るから、下手で準備して」
「はい」
 その言葉にようやく今日の本業を思い出し、二人は下手へと向かう。
「あ、待ってよ」
 それに梓も着いていこうとするが、真琴は彼女にストローつきのミルクルを渡す。
「真帆さんに渡してあげてね」
 他にも気になることが一つあったが、それは余計な不安を掻き立てるだけだろうと飲み込み、真琴は下手へと走った。

−:−

 下手側には衣装に身を包んだ出演者が控えており、発声練習らしき声が聞こえる。
 よく通る声、どこから出しているのか頭を捻る無理の無い高音。どれも学校の音楽の授業では見受けられない風景だ。
「……うわぁ、なんかすごいね……。学校の合唱とじゃ全然違うよ」
 普段声楽に携わっていない真琴でさえもその違いがはっきりとわかるほどすんだ声。大柄な男性から高く嫌味の無い声が出るのはどういうギミックなのか理解が出来ない。
 ロビーに続く扉が開くと、由真がやってくる。彼女は丁度良いとばかりに二人に手招きすると、見取り図を見せる。
「葉月君、ちょっと来て。今から君たちにセットしてもらうのは……」
 舞台見取り図にはいくつかバッテンがあり、そこに椅子や譜面などが書かれている。
「今からするのは第二幕から第三幕へと設営ね。これは本当に手早くする必要があるから注意が必要なの」
「休憩とかじゃないんですか?」
「うん。時間的な都合で休憩が取れないのよ。あと、どの作業も遅れると延滞料金が取られちゃうから気をつけてね」
「延滞料金?」
「そ。三十分刻みで二十万円ね」
 笑顔でさらっと告げる由真に二人は目を丸くする。庶民の二人にはたかが三十分の使用料で二十万などと信じられない話。せいぜいレンタルビデオの四百円程度のイメージしかない。
「大丈夫よ。めったなことじゃ遅延なんて起こらないし、基本スケジュールは巻きで行われるから」
 そう言ってウインクする由真だが、聞きなれない金額に二人とも呆然としてしまう。
「それじゃあ、最初の作業だけど……」
 指示されることはそれほど難しいことではないが、自分達の挙手挙動に遅延金がかかっていると思うと、責任は重大であった。


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