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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-9

***
 ――このごろ秀人は浮き沈みが激しくないか――
 ――なんか、相談に乗ってあげたほうがいいのかな――
 ――いや、変に触るとキレルかもしれない。そっとしておこう――
 クラスの中での秀人の評価は低くなかった。友達も普通にいるし、学業も不純な努力のおかげで悪くない。頼まれたら断れない優柔不断さはあるものの、皆おおむね好意的に捉えている。とはいえ、最近の奇行には仲の良い友人達もついていけないものがあり、困惑しているのもまた事実。結果的に差し引きはゼロかもしれないが、現在進行形で悪評が生まれているので、さし当たってはマイナス成長……。
 もっとも当の本人は例のデッサンの本について格闘中で、そんな些細な噂は耳に入らないのだが……。
***
「おい高木、最近絵のほうはどうだ?」
 級友達が秀人を遠巻きに見守っている中、石垣がその境界線を越えていく。どうも彼は秀人がお気に入りらしい。
「なんだよ、掃除なら代わらないぜ」
「いや、掃除はいんだよ。お前なんかより親切なトモダチがいるからさ。それよりうらやましいよな、きれいな先輩がいてさ」
 一瞬動きが固まる。秀人がはるかと一緒にいる事は別に不思議では無い。というより、同じ部員なのだから当然であり、画しているわけでもない。ただ、石垣がそれを口にするのは、二人だけの秘密をムリヤリ暴かれるようで、気分の良いものではない。
 石垣の目的がなんなのかは分からないが、挑発をしているのは明らかなので、それに乗るような愚を冒しはしない。ただ、それ相応言い返すことも学んでいるので……。
「ああ、いいだろ? 如月先輩は美人だもん。多分このクラスの女子よりも、もしかしたらサッカー部のマネージャーより美人かもな……あ、そっか、マネージャーいないんだっけ? 悪いこと言ったな。ゴメン、謝るよ」
 勝ち誇ったようにそう告げる。事実、サッカー部に女子マネージャーは居らず、蟷螂のような顔をした部員が、複眼で睨みを聞かせているというのが実情だ。
 さすがに言い返すことが出来ない石垣。むしろこういった話題を振ること自体がまちがっているのだが、脊髄反射で行動する彼にはそれが分からなかったらしい。
 石垣はつまらなそうに舌打ちすると、近くの机に八つ当たりをしながら教室を出る。
(やれやれ、まだまだガキだな……)
「高木君!」
(ようやくウザイのがいなくなったのに、今度は誰だよ)
 うるさそうに振り返る(と言っても声質が女子のものであったので、そこまでやぶさかではない)。
 名前は思い出せない。確か、佐藤とか言ったような気がする。
「今日の掃除当番代わってほしいなぁ……」
「え、なんで俺が?」
「あーあ、やっぱり不美人なクラスメートの頼みなんかきけないか……へー、高木君ってそういう人なんだ……」
 彼にとって誤算だったのはクラスの女子に聞こえるように挑発を返したこと。結果、女子代表の佐藤(仮)が半眼で秀人を睨んでいる。
「ゴメン、佐藤さん。その喜んでお引き受けいたします、今日の掃除当番」
「ふぅ……私は佐藤じゃなくて伊藤よ、伊藤直子。ちゃんと覚えた? もしまた間違えたら、その時はずっと掃除当番だからね?」
「ゴメン……ナサイ」
 理不尽な内容だが相手は女子、下手に逆らって総スカンを食らっては不利(それこそ来年の二月のイベントでどんな仕打ちが待っているのだろうか、考えただけでも恐ろしくなる)、ひとまず誤魔化せば忘れてくれると、軽い気持ちで引き受ける秀人であった。


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