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銀色の聖女
【ファンタジー 官能小説】

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銀色の聖女-1

アンティータムは小川の流れを見ながら思案にくれていた。
この小川がもっと村の近くまで流れていたら水を汲みも捗るのに。
本も読みたい。
花も摘みたい。
お洒落もしたい。
ミリーと町の事を色々お喋りしたい。
そんなアンティータムにとって水汲みに取られる時間は人生の無駄使い以外の何物でもなかった。
しかしまだ十六才の知恵と力しかないアンティータムにとっては水桶を担いでこの小川と自分の家を往復する事だけが唯一の方法であった。
大体、父さんも母さんも水をもっと大事に使うべきだ。
小川から水桶で水を汲み上げながらアンティータムはそんな事を考えていた。
だが…それが八つ当たり以外の何物でもない事もアンティータムは充分に承知していた。

「ふぅ…やっと終わった」
汗ばんだ額に黒い前髪を貼りつかせアンティータムは二時間にも渡る重労働を終えた。
これで夕食の準備までの僅かな時間。
自分の時間を持つ事が出来た。
“トレムの街まで行っいる時間はないし”アンティータムは午前中のうちに母親の焼いたビッケットを数枚籠に詰めるとミリーの家に向かった。
幼なじみのミリーはアンティータムより三つ歳上の十九才。
この春、結婚したばかりだった。
ミリーの惚気話を聞いているとアンティータムも結婚という物に憧れを抱いてしまう。
娯楽のほとんどない村の中で。
ミリーとのお喋りはアンティータムにとって掛け替えのない一時だった。

籠を持ってアンティータムが家が出た時だった。
空が急速に暗くなってきた。
冷たい風がビュウビュウと吹き渡る。
その風に乗って、無数の灰色の雲が邪悪な生き物の様に西の空へと流れて行く。
遮られては顔を出し…顔を出しては遮られ続ける事を繰り返す陽の光がその流れの速さを物語っていた。
アンティータムが物心ついてから今日に至るまでこんな事は例を見ない事だった。
この季節とは思えない寒さが込み上げてくる。
総毛立つ様な不安がアンティータムの心を支配し始めていた。
「父さん…母さん…」
アンティータムは吹き付ける風の中…畑で農作業をしているであろう父と母の元に走った。
一人でいるには堪らなく不安過ぎた。
「どっ!」
畑に着いたアンティータムの足が止まった。
父と母は畑にいたのだが…。
いたのだが色彩を失っている。
「どうしたの!」
バサッと籠を取り落としたアンティータムは父と母の駆け寄った。
だが父と母はアンティータムに声をかけようともしない。
声をかけないどころか二人とも動こうとすらしない。
「ど…どうして…」
駆け寄ったアンティータムがヨロヨロとその場にへたり込む。
鍬を振り上げたまま動かない父。
腰を屈め雑草に手を伸ばしたままの母。
そして色彩を失っている理由がわかった。
「いっ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
畑に木霊するアンティータムの悲鳴。
石化した父と母に届いているのだろうか。


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