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銀色の聖女
【ファンタジー 官能小説】

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銀色の聖女-2

「父さん…母さん…」
アンティータムは泣きながら村の中を走った。
強烈な寒さと吹き荒ぶ風、流れる行く雲はまだ収まっていない。
誰でもいい。
誰でもいいから父と母の異変を伝え…助けを求めなければ。
アンティータムは走り続けた。
「ジェンスさん!」
畦道に隣に住む老人の姿を見つけたアンティータムの足が早まる。
「父さんが…母さんが…助けて!ジェ…」
絶望に打ちのめされたアンティータムの足が止まる。
「い…いやぁぁぁぁぁぁ!」
隣に住んでいた老人も色彩を失い畦道に立ち尽くしていた。
「ミ…ミリーは!?」
アンティータムは姉妹の様に育った幼なじみの名前を呼ぶとヨロヨロと歩き始めた。
どうしてこうなったなんて今のアンティータムに考える余裕は無かった。
誰でもいい。
ただ、誰かに“大丈夫だよ”と言って欲しかった。
「ミリー…ミリー…」
アンティータムは泣きじゃくりながらミリーの家へと向かった。

ミリーの家…。
家の前まで来ても誰の声も聞こえなかった。
「ミリー!ミリー!」
パニックになりそうな静寂がアンティータムを包んでいる。
恐ろしいまで不安に苛まれながらもアンティータムは家のドアを開けた。
家に入ると直ぐにアンティータムは立ち止まった。
もう泣く気力も悲鳴を上げる気力も消えかけていた。
椅子に座り編み物をしている形のまま石化したミリー。
「な…なんでよ…」
耐え切れない程の悲しみが遅れてやって来た。
「なんとか…言ってよ…ミリー」
泣きながらミリーにすがり付くアンティータム。
だがミリーの硬く冷たい感触は石そのものだった。

こみ上げる恐怖、不安、悲しみを抑えるすべなく村中を駆け回ったアンティータム。
村中の人間が石化している事実を目の当たりにしたアンティータムは村の中央にある広場でヘタリ込んでしまった。
普段はこの貧しい村の中で唯一活気に溢れている広場も今は静寂に包まれていた。
走り回る子供達−ティムとルッツとエイドリアン。
農作業の帰りに立ち話をしていたおばさん達−マテオさんとカーラさん。
さっきまでこの広場で動いていたであろう人達も石化して固まっていた。
赤く腫れ上がった双眸で辺りを見回すアンティータム。
涙は既に枯れていた。
「こんなの…夢だ…」
誰に宛てたのでもなく呟くアンティータム。
当然ながら応える人間はいなかった。
応える人間は人間はいなかったが…。
〈夢にしてやろうか?〉
突然の事にアンティータムは心臓が止まりそうになるくらい驚いた。
“幻聴?私…おかしくなっちゃったの?”そう思いながらもアンティータムは辺りを見回し突然聞こえた声の主を探した。
〈幻聴ではない…〉
“…だれ!”アンティータムは声の主を探そうとヨロヨロと立ち上がった。
見えない声に対する恐れはあったが…この忌まわしい出来事から脱却する為には恐怖の殻に閉じ篭っている場合ではない様な気がした。
「だ…誰なの!」
アンティータムは勇気を振り絞って声を上げた。
〈お前に言っても判るまい…〉
「ど…何処にいるの!」
アンティータムは振り合えるキョロキョロと辺りを見回した。
〈探しても…見つからんよ〉
姿なき声はアンティータムの心の中の行動も総て見ている様であった。
突然、聞こえてきた声にアンティータムに恐怖を感じながらも何処か安堵を覚えるアンティータムだった。
〈そうだ…俺なら元に戻せる〉
姿なき声はまたしてもアンティータムの心を読んだ様だ。
「どうすれば…いいのよ!」
アンティータムは虚空に向かって叫んだ。
元々、芯の強いアンティータム…みんなを元に戻す方法があると判って途端に気力を取り戻し始めていた。
〈まずは泉へ行け…〉
「泉?」
〈お前がいつも水を汲んでる小川の上流にある〉
あぁ…あの場所かと心あたりのあるアンティータムは絶対にみんなを元に戻す。
そう意気込んで姿なき声が指し示した泉へと向かった。



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