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十字架を背負いし者
【ファンタジー 官能小説】

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十字架を背負いし者-2

「…らしゃい…」
奥の部屋にいたアリシアが少し距離を置いた所からドミニクを見上げ。
恐る恐ると言った感じで声をかけてきた。
「娘のアリシアだ…アリシアおいで」
ディンは目元を綻ばすと良き父親ぶりを発揮して愛娘を抱き上げた。
長いストレートの黒髪に大きなブルーの瞳…利発そうな女の子だった。
そんなアリシアの顔をマジマジと見つめるドミニク。
そして大きくへの字に曲げたドミニクの口元に微かな笑みが浮かんだ。
アリシアも小さいながらも一生懸命の作り笑顔で応えている。
更にドミニクの顔がほころんだ。
ディンは改めてドミニクの美しさを実感した。

「で…ドミニク…あんたは何処に向かってんだい?」
ディンは水の入ったカップをドミニクに差出しながら言った。
ただの水。
だが乾ききったこの土地では水が何よりの宝だった。
「すまんな…貴重な水を…」
「気にすんなよ…まだ売る程あんだから」
お人好しであると同時に人懐っこいディンはこの強そうで美しい大女をただの人間として気に入りかけていた。
「悪いが…金もない…」
「あっ!そんな意味じゃねぇって…遠慮せずに飲みなよ」
しくじった…そんな感じで笑いながら鼻の頭をかくディン。
それはドミニクにとっても心の休まる時間だった。
「じゃあ…遠慮なく…」
ドミニクがカップに口をつけ…綺麗にろ過されたオアシスの水を口に含む。
「旨いな…」
両目を軽く閉じたドミニクが喉を鳴らしながら言った。
「だろ!さぁあ…遠慮せずにジャンジャンやりなよ」
ディンは嬉しそうに顔をほころばせドミニクに水を勧めた。
「本当にすまんな…アタシはサドラの街を目指している…このオアシスの近くだと聞いたが」
落ち着き払った感じのドミニクの声だった。
「近いと言えば近いが…」
ディンはやや困った様に口籠もった。
サドラの街…。
其処はディンが水の商いをしている場所でもあった。
だが今、ディンとドミニクのいる小屋から駱駝で半日以上の距離だった。
「南に行った辺りだが…駱駝でも半日はかかるぞ」
今日は随分前に正午を回っていた。
「そうか…なら早く行かないとな…世話になった」
ドミニクはマントを翻し立ち上がった。
「なぁ…あんたムチャしないで泊まってけよ」
ディンは眩しそうドミニクを見上げる。
「いや…それは…」
口籠もるドミニク…意外とも取れる態度だった。
「勘違いすんなよ…下心なんてないから…」
ディンは子供の様な笑顔で顔をクチャクチャにしてドミニクを見つめた。
「フッ…」
今まで張りつめていたドミニクの心が数ヶ月ぶりに緩んだ。
ドミニクの口元に微笑が浮かんだ。
ディンは改めて自分が美しい女と話していた事を実感した。

ディンにとっては数年ぶりの華やいだ食卓となった。
料理自体はジャガイモと小麦を中心にした粗末な物であったが。
ドミニクには久しぶりに心も身体も暖まる食事であった。
そして粗末ながらもディンはとって置きの酒をドミニクに振舞った。
最初は緊張気味だったアリシアも瞬く間にドミニクに懐いていった。


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