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十字架を背負いし者
【ファンタジー 官能小説】

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十字架を背負いし者-1

灼熱の砂漠…。
太陽はギラギラと輝く竜の瞳の様に輝き。
焼け付く熱風は竜の吐息の様に乾いた砂を巻き上げていた。
その何もない乾いた大地を蜃気楼の様なひとつの影がユラユラと進んでいた。
ただ人影が揺れているのは立ち上る陽炎のせいで。
その人影の実際の足取りは強靭そのものっと言った感じであた。
吹き付ける砂嵐や照りつける太陽から身を守る為…その人影はフード付きのマントですっぽりと身体を覆っていた。
時折、立ち止まるとフードの陰から行方をしっかりと見つめる。
その双眸には、はっきりとした意思の光が宿っていた。

また歩きだす…。
こうして、この人影は荒涼とした砂漠を幾日も歩いて来たのだ。

小さなオアシスの近くに粗末な小屋を構え…オアシスの水を近隣の町やその周辺で売りさばく事を生業としているディンは。
丁度、小屋の脇で駱駝の世話をしている最中であった。
この辺りでは駱駝なしの生活は考えられない。
ディンはまだ子供の駱駝に干草を与えながら…今、売りさばくべきか、もう少し様子をみるか考えていた。
母駱駝もそう若くない…この子駱駝が最後の出産になる可能性もあった。

「まさか…」
子駱駝に干草を与えていたディンの手が止まった。
西の方から人影が近づいてくる。
西の街〈アルゲイド〉は駱駝でも一週間はかかる距離だった。
途中で駱駝が死んだに違いない…なんにしても街の近くで良かった。
人の良いディンは勝手にそう思いこみ。
近づく人影に出来るだけの事をしてやろう…そう考えて人影を待った。
「あんた!だいじょうぶかい!えらい目に遭ったみたいだな!」
ディンが考えていたより遥かに早く人影は声の届く位置まで来た。
そして…しかっりした足取りだった。
人影は気軽な感じで片手を上げると更にディンに近づいてきた。
そして、声を張り上げなくても会話出来るくらいの距離まで来た。
大柄のディンだったが人影は更に大きかった。
「大変だったな…駱駝は死んじまったのかい?」
ディンは人影の労をねぎらう様に声をかけた。
「駱駝?なんの事だ?」
「へっ!?」
人影が上げた声にディンは思わず間抜けな声を上げてしまった。
“最初から駱駝なし”“その声は女”二つの事にディンは驚愕していた。
「まぁ立ち話もなんだ…小屋で休んでいきなよ」
ディンも四十手前の男…下心が全くないかと言うと嘘になるが。
騙して襲ったりするつもりは更々無かった。
このディンという男…この過酷な世界で生きるには心配になる程のお人好しであった。
その事はディンも気がついてはいたが。
四歳になる娘のアリシアの笑顔をさえあれば満足のこの男は。
亡き妻に感謝しつつ娘と二人、平穏は日々を生きていた。

「すまない…」
人影も遠慮する事なくディンのあとについて小屋に入って来た。
マントの下のシルエットもがっしりはしているが九分九厘女だった。
女の身で一人砂漠を横断するなんて…よっぽどの理由があるのだろう。
ディンの心に好奇心の芽がムクムクと芽生えてきた。
「まぁ…ゆくっりしてきなよ」
ディンは簡素なテーブルに着く事を進めながら歳の割りには人懐っこい笑顔を浮かべた。
「悪いな…助かる」
人影がフードを下ろした。
太陽よりも真っ赤な髪は女性らしく肩まで伸びていて全体にウェーブがかかっていた。
眉も同じく赤く太くキリッと吊り上っていた。
目もぱっちりと大きい。
鼻筋も通っているし…口は大きめだが気になる程でもない。
肌は流石に日焼けはしているものの健康的な褐色だった。
街の下世話な連中に言わせば上玉。
そんな女を目の当たりにしてディンの僅かながらの下心は完全に消失した。
普通は逆だと思われるが…何故?
理由は簡単だった。
女が異常に強そうなのだ。
砂漠を一人歩いてきた事実も…腰にさしたダガーもそうだが。
とにかく見る者を圧倒する雰囲気を持った女だった。
「俺はディンだ…あんたは?」
女の真っ直ぐな視線を照れくさそうに仰ぎ見ながらディンが言った。
「ドミニクだ…」
決して凄んでいる訳ではないが名乗るだけでも相手を圧倒できる様な声だった。


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