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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:二部】三章:悪魔と狐-5

「今夜はやけに冷えるな」アランはさっそく、審問官から盗んだマントを広げた。アラスデアは、それを見て一瞬ぎょっとした。

「どうしたの、それ」アランは得意げに笑った。

「ちょっと、ぶんどってきた」アランは、マントで自分とアラスデアの体を覆った。

「良い気分だ、戦利品でぬくぬくと暖まれるって」アラスデアは身じろぎして体を落ち着けた。眠りに落ちる前のサインだ。「おやすみ、アラン」

「おやすみ」アランは、そういった後もしばらく起きていた。

 もし、あそこでレナードが現れなかったら、私はあの少女を助けていただろうか。あの壇上に躍り上がって、審問官を糾弾し、あの隊長に剣を向けただろうか?あんなに沢山の兵を相手にするとわかっていながら?アランは、答えのない問いを、幾度も噛みしめた。審問官を倒した高揚感も、少女の逃亡を助けた満足感も、もう消え失せていた。自分に足りないのは、王としての資格だけだと思っていた。それは、もう決して戻ってくることのないもの。アランにとって、それは清らかで、高潔な心、そして純潔だった。自分にはないもの。自分はただ、粗野で、世間知らずな青二才に過ぎない。王になるなど到底無理だ。薪の奥でちらちらと、炎が燃える。

 でも、私にはもっと足りないものがあるのではないか?アランは初めて、そう思った。

 炭の芯に息づく最後の赤い点が風にさらわれてしまうまで、彼女は瞳を開けていた。



久しぶりに見る朝日は神々しいほどに美しかった。森では、木の幹に阻まれ、顔を出したばかりの太陽を拝むことはまず出来ない。徐々に増す明かりと、鳥たちのおしゃべりを手がかりに朝の訪れを知るだけだ。しかし、アランとアラスデアが今立っている荒野からは、山の輪郭を黄金に染めて輝く朝日がよく見えた。夜が明けきらないうちに森の中の夜営を畳み、西へ向かって歩き出した。程なくして森は途切れ、白み始めた空と、ヒースの野の他には何もない所に出た。その時には、ぼんやりとした黒い線にしか見えなかった遠くの道は、朝の光の中ではっきりと目にすることが出来た。おそらく、あれを辿ればユータルスにつくはずだ。城の塔の屋根から見た、何処までも続く一本道を、逆から辿っていくのだと思うと奇妙な感じがする。

「懐かしい匂いがしてきたぞ」アランは言った。

 ヒースは、農耕に適さない不毛な荒れ地にも茂る生命力の強い花だ。荒れ地に住むムーア人は、花からはヒース・エールを作り、その蜜で養蜂を行った。彼らは家の土台から屋根の茅葺き、籠にロープと、様々な使い道をその灌木に見いだした。ヒースは常緑樹だが、夏に豊かな収穫を得るためには、一年に一度、根本まで焼き払っておかねばならない。この場所には、ヒースの野を焼く時の独特な薫りはもう残っていないが、夏に向けてぐんぐんと伸び始めた草の香りが満ちていた。ユータルスの周辺には、ムーア人は住んでいなかったが、ヒース・エールを作るために、領地の中でヒースを育てている場所はあった。言い換えれば、そこはヒース以外の作物が生き延びられなかった場所でもある。花の香りが漂う季節は、夏――黄金の季節――への期待が高まり、城は活気に満ちる。旨いエールと濃厚な蜂蜜の予感に、みんなの気分は浮き立ったものだった。


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