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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:二部】三章:悪魔と狐-4

「さあ、見てないね……」そこで、大通りの方から誰かが叫ぶのが聞こえた。

「いたぞ!狐だ!」2人の男はまた顔を見合わせ――どうやら、本当に双子なのかもしれない――同時に大通りに向かって駆けだした。この時アランは、思慮に欠けた事ではあるが、できるものなら一戦交えたい気分になっていた。レナードの様に。その思いが、火種を煽る鞴のようにアランの心を燃え立たせた。

 それに、と、狡賢い声が言う。レナードの追っ手を、一人減らすというのは、全く持って素晴らしい思いつきではないか?アランは自分の横を通り過ぎようとした2人のマントをぐいとつかんで引き倒した。

「何をしやがる――」一人が声を上げ、体を起こそうとする。アランは自分の肘を思い切り男の顔面にたたきつけた。一人目は煉瓦の壁に後頭部をぶつけて気絶した。もう一人がもがきながら起き上がり、後ろからアランにつかみかかる。アランはとっさにしゃがんだ。男が目標を失ってつんのめったところで、すっと立ち上がり男を背中から地面にたたきつける。男は息を喘がせ、応援を呼ぼうと口を開けた。しかし、アランが勢いよく男の腹に馬乗りになったせいで、「うっ」とうめき、かき集めた空気を失った。

 振り上げられた拳が男の頬に触れる前に垣間見た、正体不明の襲撃者の表情は、さながら、ウサギを食おうとする狐のように見えたことだろう。

「よし!」

 満足げに手をはたきながら立ち上がり、その場を去ろうとするアランの目に、無造作に広がった赤いマントがうつった。誰もが恐れ、敬う、権力の象徴。異端審問官の証を。アランは1秒ほど考え込み、次の瞬間には審問官の服を丸ごといただいていた。

「この服を着るんだ」アランは少女に言った。彼女の髪は、焚刑の前に既に短く切られていた。やせこけた体には女らしい丸みはない。皮肉な話だが、男として十分通用するだろう。

 幸い、地面に伸びている審問官は2人とも、男にしては背が低い。アランも、もう一人の男からブリガンディンとマントだけ拝借して、その場を去った。いつか、この胸くそ悪い制服が役に立つかもしれない。少なくとも、雨をしのぐテントの代わりにはなるだろう。分厚い生地をさすって、アランはもう一度曇天を見上げた。空が暗いのは、雨が近いせいばかりではないようだ。雲の向こうでは、もう太陽が帰り支度をしている。

「さあ、門まで行こう。何かあったら、振り返らずに家まで走るんだ。いいね?」



「ほっとしたよ、アル」アランは、森で彼女を待っていたアラスデアと落ち合うなり、街での話を聞かせてやった。アラスデアは嬉しそうに喉の奥で低く笑った。アランは暖かなアラスデアの体に寄り添って、豊かなたてがみをぼんやりいじりながら語った。

「スプリング・ラムゼイは、無事に旅立った」アランは彼女の子供と、その父親のことから無理矢理意識を反らせた。

「そう言えばレナードは……見慣れない剣を使ってたな。大陸のものかも」

「どうしてそう思うの?」

「聞いたことのない訛りで話してたんだ。トルヘア中探しても、あんな話し方をする地方はないだろうな」

「大陸」アラスデアが感慨深げにため息をついた。「トルヘアよりも、ずっとずっと広いんでしょ?どんな人たちがいるんだろうな」

「さあ……とにかく、想像も付かないくらい沢山いるんだろう。覚えきれないくらい沢山国がある。東の果てには、黄金の国があるって話だ。話す言葉も全く違うんだって、ロイドが言ってたっけな」

足下で赤赤と燃える火に集まる虫が増えてきた。


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