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小太郎
【家族 その他小説】

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小太郎-2

「痛ててて・・・」

とことこと駆け寄る小太郎。
さすがに悪いと思ったのか、俺の顔を長い舌でぺろりと舐めた。
大丈夫だ、だが飛び出すな、人は急には止まれない。分かったな?小太郎。

「わん!わん!」
「お、おい!」

俺が立ち上がったのを確認し、それなら大丈夫だろうと言わんばかりに走りだす。
今度は何とか転ばずについていけそうだ。
だが、走るのが速いのでいつ足がもつれるか分からない。ちょっと待ってくれよ、小太郎。

張り詰めっぱなしのロープを離さない様に握り締め、猛進する小太郎を追い掛けた。
大型じゃないのに、体の何処にこんな速く走れるエネルギーがあるんだよ。

「止まれ!もう限界だ、病人だぞ俺は」
「わんわん!わん!」

うるさい、黙ってついてこい。

あいつはそう叫んでいる様な気がした。
どこに行くか予想もつかない動きをして、いつ終わるかも分からない散歩。
それは、俺に必要以上の汗をかかせていた。


「まったく・・・坂ばっかり登りやがって、見てみろこの汗」
「わんわん!」


帰ってすぐにジャージを脱ぎペットボトルのジュースを流し込んだ。
すると、胃袋が水分で刺激されたのか、収縮して大きめの音を立てた。

「あれ?」

・・・もしかして、空腹の感覚が戻ったのか。
風邪が酷いとそういう感覚は鈍くなるものだが、思ったより重症じゃないのかもしれない。

シャワーを浴びて食事をしたら普通に喉を通ったので、会社に今から行くと連絡した。
頭の重さは怠さはかなり良くなり、若干鼻声なのを除けば普段の体調とそう変わらなかった。

「小太郎、ありがとう。お前が散歩に誘わなかったから、苦しんでまだ寝てたかも」
「わん、わうわう、わおん」

果たしてなんと言ったのか。
どういたしまして、と言ってるのか、或いは世話の焼ける奴だ、と呆れているのか。

「行って来る!」
「・・・わん」

小太郎は毛だらけの座布団に丸まり、眠そうに鳴いた。
こいつには色んな顔がある。

遊びをせがむ時や我が儘な時は弟みたいで、俺を気遣う時は兄貴みたいだ。
そして、俺を送り出す姿は父親みたいにも見え・・・なくもないな。

こっちも見ないで尻尾をぱたぱた振っている。

やれやれ、俺はこれからもお前に振り回されてしまいそうだ。


〜おしまい〜


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