投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

【イムラヴァ】
【ファンタジー その他小説】

【イムラヴァ】の最初へ 【イムラヴァ】 76 【イムラヴァ】 78 【イムラヴァ】の最後へ

【イムラヴァ:一部】第十三章 鷹の娘-2

「うん。それで、グリーアはどうしようか迷ったみたいだけど、そのまま行っちゃった。みんな追いかけたけど捕まらなくて……長はみんなに出発するように行ったんだ。仲間に伝えなきゃいけないって。それで、さんざん探したけど、見つかった仲間はほんの少しだった。そのうちに、兵隊が森に入ってきて……僕たちはあの洞窟に隠れたんだよ」

「そうだったのか……」アランは言葉を失った。

 あの洞窟をでたのが、遠い昔のことのように感じる。城の柔らかい寝台で寝返りを打っていたのが、何十年も昔のことのように感じた。暖かく、香草のきいたうまい夕飯に、暖炉の暖かい火……今では、木の根が枕、木の実が夕食だ。それに、友人とも……ハーディは、そんなアランの心を読んだのか、

「ごめんね、アラン」そう、ぽつりと口にした。「僕が呼びに行かなかったら、アランは仲間を裏切らなくて済んだのに。あの男の人は優しそうだった。アランが城に戻らないって言った時、すごく悲しそうだったし」ハーディの声が震え始めた。「でも、怖かったんだ、アラン。僕、どうしていいかわからなくなっちゃったの。長が死ぬなんて、絶対嫌だったんだ」アランは抱えていた桶を置いて、小さな友人を抱きしめた。

「良いんだよ、ハーディ。気にするな」そして、無意識のうちにこう言っていた。「これで良かったんだ。こうなるようになってたんだよ」

 そう考えると、自分が今、この緑の世界にいるのが自然なことのように思えてくる。せせらぎと、鳥の鳴き声、風が渡る音、木々の葉の間から差し込んで森を満たす朝の光に包まれると、今までとは全く別の人間になったようだ。コルデンで生活していく内に生まれた頃の事を忘れ去ってしまったように、いつかあの城であったことも忘れてしまうのだろうか。当たり前だった日常が、やがて思い出になり、おぼろげな記憶となる。身体の中が、自分の意識が、今までとは別のもので満たされてゆく。なにか変化が起こるかすかな兆しを、アランは心のどこかで感じていた。



 ロイドは常に決まった者と旅をしているわけではない。ロイドといつも一緒にいるのはグリーアだけで、後の者達とはほんの短い間行き先を共にするだけだという。目的地に至る道が枝分かれしたら、そこからはまた別々に旅をすることになる。それでも、旅の道連れにロイド――誰もが長と呼ぶ男――が居たのなら、どれだけ安心できるだろう。それに、そうして仲間同士で話をすることが、森の内外の情報を得る唯一の手段でもあった。森の中には沢山の仲間がいて、御料林管理官の手の届かないような奥地で生活が営まれている。追われる身である以上、定住は望めないが、それでもトルヘアの人間に捕まるよりはましだった。捕まることはすなわち、死を意味したからだ。

 各地で公然と行われる異端者狩りは、凄惨を極めていた。国王は、国中の異教徒にチグナラ、知識人までも、根絶やしにしない内は一睡も出来ないと思っているらしかった。最近ではその仕切りも取り払われ、怪しげな人間は片っ端から処刑され、片っ端から財産を没収されていた。気分の良い日に、飼っている山羊に話しかけたのを隣人に見られでもしたら一巻の終わりだ。たちまち獣と会話していたかどで捕らえられ、悪魔と通じているとか、魔法を使って畜生と会話していたなどという疑いをかけられる。疑いをかけられたら最後、耳にするだけで血の気の失せるような拷問の末、自白を強要され、そして処刑される。

 国教の教父が裁判官を務めるならまだしも、そこらの農民が隣人に判決を下したという例もあった。彼らを鼓舞するのは、国中を渡り歩く異端審問官の一団である。


【イムラヴァ】の最初へ 【イムラヴァ】 76 【イムラヴァ】 78 【イムラヴァ】の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前