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【イムラヴァ:一部】第十三章 鷹の娘-1

第十三章 鷹の娘



「何だって?!」アランは手に持っていた桶を危うく取り落としそうになった。たった今、ロイドの脚を射たのはグリーアだと聞かされたからだ。通りでみんなが距離を置いているはずだ。危ない男だと思っては居たが、そこまでとは……。

 ハーディは浅瀬から離れたところで集まっている仲間達をちらりと見た。思い思いの朝を過ごす彼らには、今の叫び声は届かなかったようだ。ハーディは咎めるようにアランを見た。

「だから、秘密だってば。そんな声出さないでよ」

「ごめん」アランは気と桶を持ち直した。「でも何で?あいつはロイドと……長とは長いつきあいなんだろ?」

「アランが帰った後、グリーアが入れ替わりみたいに戻ってきたんだ。すごく焦ってて、ついに見つけたとか何とか言ってた」ハーディは肩をすくめ、子供なりに精一杯大人っぽい身振りを交えてささやいた。「グリーアはお城に行って、はくしゅうしたいって言ったんだ」

「はく……ああ、復讐ね」アランはまじめな顔で相槌を打った。では、その復讐の相手が私というわけか。アランは思った。こっちは死にそうな目にあったというのに、人違いであることに間違いはない。まったく。それで今に至っても、なんの釈明も謝罪も無しだ。「で、ロイドは?」

「長は行くなって言ったの。もうすぐ大きなお祭りがあるから、森には色んなところから仲間が集まってたんだ。だからアランに教えてもらった事を、森に隠れてる仲間に知らせないといけないから、今すぐに出発するんだって。グリーアは言うこと聞かないし……それで大げんかさ」大きな祭り。あんなに大勢のクラナドが居たのはそのせいだったのか。向こうに座っている彼らに聞こえていい話なのかわからなかったから、アランは木の幹に生えているキノコに気を取られたふりをして立ち止まった。ハーディも立ち止まって話を続けた。

「長は力尽くで止めようとしたよ。でも、グリーアは長の弟子なんだ。2人ともとっても強いんだ。喧嘩になったら……わかるでしょ、僕らは見てるしかなかった。で、グリーアがいきなり長に背中を向けて走り出した。喧嘩を放り出して、さっさとお城に行こうとしたんだと思う」彼はちらりとみんなの様子を見てから、木の幹のキノコを引っぺがして、手の中でもてあそび始めた。「それで、長がグリーアの脚を弓で狙ったの。どうしても行かせたくなかったんだと思う」弁解するようにアランを見る。仲間同士で気軽に矢を射り合うような奴らだと思われたくないのだろう。

「ああ、わかるよ」アランはもっともらしくうなずいた。自分だって、彼らを守るために仲間に向かって剣を抜いた。絶対にしてはいけないと教えられていることだし、教えられなくたって分かることだ。同じ羽根の色をした鳥は集まるという言葉があるが、その言葉を地で行っているような気がしてきた。それでも彼女は頭の中に覚え書きをした。クラナドとの喧嘩は命取りになる恐れあり。

「で、グリーアはつい、その矢を跳ね返しちゃったんだ」

「つい、ね」アランは、矢を跳ね返すと言うことが可能なのか検討してみた。一瞬の後、彼女は諦めて聞き返した。「跳ね返すって?」

 ハーディは何でもないことのように言った。「魔法だよ。グリーアに剣や弓を教えたのは長だけど、昔、友達に少しだけ習ったことがあるんだって」

「ああ、そうか、魔法ね」アランは馬鹿みたいに繰り返した。「そうなんだ」そういえば、シーやアラスデアみたいなものがこの世界に存在しているのに、魔法が存在しないはずがないじゃないか。アランは自分を納得させようとした。


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