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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:一部】第十三章 鷹の娘-3

 聖職者の中から任命された彼らは、いわば選り抜きの聖職者だった。最初の頃こそ崇高な使命感を持っていて、することと言えば異教徒に改宗を勧め、従わないものにはちょっと灸を据えるくらいだったかも知れない。しかし、すえる灸をもう少し高温にする、焼きごてを当てるだとか、最終的には燃えさかる炎の中に放り込むだとか、そう言う類のことをする権限を与えられるようにまでなってしまった。修行に明け暮れ、抑鬱された青春を過ごした聖職者達は、たがが外れたようになってしまったのだ。そのたがも元々緩かったのだろうが。

 今や、国教会選任の異端審問官たちは、異教徒と悪魔と、異教徒の疑いをかけられたにすぎない者達を片っ端から殺していくための、無法の軍隊になりはててしまっていた。そんな者達に、クラナドが見つかったら……どうなるかは、焚刑台の火を見るより明らかだ。

 中でも熱心なのが、シプリーの教会に遣えている異端審問官だ。教父の姿をした兵隊と言うよりは、もう兵隊の姿をした教父と考えた方が早い。彼らは、森林管理官あがりのウッドロウという領主から莫大な寄付金を受け取り、しばしば彼のために動く。何人のクラナドがあそこで処刑されたかは、すでに数えることが出来ないほどだ。ほとんどのクラナドは、シプリーの名を聞くだけで、鳥肌が立つ。



 そんな情勢だから、これからのことを決めるのに結局半日を使った。慎重になりすぎることはない。どうすれば兵隊どもに見つからずに済むか、どっちへ向かえば他の仲間と合流できるかを話し合った。浅瀬の岸は居心地が良かったし、対岸でじっとこっちを見つめる石像も、何故か彼らに安心感を与えた。もし、あの石像がそのまま生きた人間になって、対岸からこちらを見つめていたら不気味だっただろう。風雨にさらされた顔はあばただらけ、そうでなくても、美男子を想定して作られた像でないことは確かだ。しかし、ツタが絡まった状態で、木の虚にぴったりと収まっていると、まるで石像自らが望んでそこにいるのだという奇妙な意志を感じることが出来る。誰も彼をそこから動かすことは出来ない。きっと彼は、あの大木と共にすべてを見て、それを誰にも語ることなく、誰にも気づかれずに朽ちてゆくのだろう。もしかしたら、あの木の根元で誰かが死んだかも知れない。あの木に、浅瀬の精の手が触れたかも知れない。それでも、それが語られることは無いのだ。死んだ誰かを探している者が、浅瀬の精に会いたいと請い願って居る者が、目の前に跪いたとしても。

 彼女はふと、自分の抱えている秘密のことを思った。自分の血統を抱えたまま、私もあの像のように朽ち果ててゆくのだろうか。そうすることが正しいことなのだろうか?そうすることが、自分に出来るだろうか?



 結局、仲間の内半数は東へ、ロイドやグリーア、そして身寄りのないハーディとアランは南へ向かうことになった。他の者達と一緒に行っても良かったのだが、ロイドの側にいていろんな教えを請うことが出来るのは大きな魅力だった。聞きたいことが山の様にある。それに、彼もアランに興味を抱いているようだ。彼は知識の泉だった。その傍らに胡散臭い用心棒が付いていたとしても、そのことに変わりはない。

 仲間で取る最後の夕食には、どことなく粛々とした雰囲気が漂っていた。貴重な酒が回され、到底酔える量ではないにもかかわらず、みんなほんのり酔ったふりをした。

「あんたの親御さんは、どこに住んでたんだい?」ディーンがワイアットに聞いた。今となっては、トルヘアに身を潜めるエレン人のほとんどがトルヘアの生まれだ。それでも、祖父母が暮らし、両親が生を受けた島の話題が、仲間の間で登らぬことはない。

「クナトだ。あんたは?」

「ダン・ロッホの近く」ハロルドは、ぽつりと答えた。アランには、エレンの地理はさっぱりだったが、クラナド達にとってはそうではないらしい。きっと、何度も親や仲間達から島の話を聞いて来たのだろう。まるで実際にその目で見たことがあるみたいに生き生きと故郷の話をした。


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