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中野望のセイタイ実験
【コメディ 官能小説】

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中野望のセイタイ実験-1

夏休みも終わりに近づいた八月十八日の金曜日。
切ないヒグラシの声に紛れて聞こえてくる、小さなアパートの床を歩く靴音が、その扉の前で止まった。
「で、こんな時期にお前達が来るってことは」
休みだというのに、中野望(なかののぞむ)は普段と全く変わりのない学生服と白衣姿で訪問者を迎える。眼鏡の奥の切れ長の瞳に射抜かれ、訪問者――上条祐樹(かみじょうゆうき)と下村藍子(しもむらあいこ)の二人は、苦笑を浮かべて同時に頭を下げた。
「「宿題を見せて下さいっ!」」
二人の声が重なり、望は呆れたように溜息をつく。
「毎年毎年、いい加減に学べ」
確か去年もこうだった、と彼は腕を組んで言った。
「まだ日にちがある。今年こそ自分の力でやっだらどうなんだ」
「アホか! 月曜日の臨時登校で提出しなきゃならねーもんが山ほどあるんだよ!」
そんなことを威張って言われても困るのは望である。
彼は再び溜息をついた。


幼馴染である望、祐樹、藍子の三人は小学校から同じ学校に通い、現在高校二年に至る。望の記憶が正しければ、中学生の頃から祐樹と藍子は夏休みの宿題を望に頼っていた。四年間もそんな状態なのだから、二人とも夏休みに宿題をやるという習慣がなくなっているのかもしれない。
部活にプール、海水浴に遊園地。夏休みを満喫し、すっかりいい色に焼けた二人を見て、望は思う。
しかし、彼らが自分に宿題を頼ってくることはむしろ望にとってはありがたかった。『交換条件』が出せるからだ。
「分かっていると思うが、宿題を写させる代わりに条件がある」
「ははーっ」
「何なりと!」
二人は頭を下げたままで言った。にやり、と望は微かに口の端を吊り上げる。


中野望は、自他共に認めるマッドサイエンティスト。
自分で実験を繰り返し妙な薬をつくっては、幼馴染の二人にも明かせないルートで、怪しげな薬を怪しげな大人たちに売っていた。薬を売っているということを除けば、彼がマッドサイエンティストであることは二人を含め周知のことだ。理科の時間にでもないのに白衣姿の望は、入学当初から注目の的だった。
「条件って、あれだろ? 薬の実験だろ」
そう言いながら祐樹が顔を上げるのと同時に望は口の端の笑みを掻き消した。
「そうだ」
「やった、楽勝じゃん」
藍子が言って手を叩く傍ら、祐樹が苦笑を浮かべる。
「俺は去年と同じだと、また地獄を見るはめになるけどな……」
それでも、と彼は望の肩をがしっと掴み真剣な眼差しで言った。
「この溜まりに溜まった宿題を消化するよかマシだ!」
去年は宿題を見せる代わりに特製ビタミン剤と下剤を治験させたのだが、どちらも失敗作だった。藍子の飲んだビタミン剤は彼女の肌荒れを直さなかったし、逆に下剤はあまりにも効きすぎて祐樹に地獄の一週間を味わわせたのだった。
「今年も下痢くらいなら、何とか我慢する! 」
「あの時は条件をのむんじゃなかったって散々後悔してたくせに……」
拳を握る祐樹を横目に、やれやれと藍子は肩を竦める。
そんな彼女を軽く睨んでから、祐樹はへらっと笑い望の肩を叩いた。
「んじゃ、そんなわけで〜」
「よろしく、望♪」
二人は笑いながら、おじゃまします、と望の家に上がり込む。
彼らの背を見つめ、望は溜息ひとつついた後、再びその口の端を吊り上げた。


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