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『Scars 上』
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『Scars 上』-8

「じゃあさ、せっかくだから今日はお祝いしようぜ? 女の子も誘ってぱーっとさ!」
「女の子?」
ユウジの言葉を聞いたレイが、マツリを指差す。
マツリはきょとんとしていた。
「違う違う! こんなんじゃなくて、もっとちゃんとしたさ!」
「何!? アタシはちゃんとしてないってこと!?」
表情を一変させて、気色ばんだマツリがユウジに飛び掛る。
「俺はギャルとか興味ないの!」
「なによ! あたしだってあんたなんか興味ないし!」
道の真ん中でギャーギャー揉み合うユウジとマツリ。
レイがそんな二人を見て、ため息をついている。
「ナンパしようって言ってんだよ! イオリとレイがいればいけんだろ」
マツリを押しのけながら、ユウジがそんなことを言う。
「ナンパねえ……」
正直、気が乗らなかった。
女なんか、うるさいだけじゃないか。
「イオリがそんなことするはずないじゃん! あたしがいるんだから!」
じたばたと暴れるマツリ。
俺はそんなマツリに白い目を向ける。
レイは至って無関心を貫き通している。
「たまには、いいだろ? ほら、あそこの白嶺の子たちなんてどうよ?」
白嶺女子高。
超がつくお嬢様高校だった。
うちの桜花学園とは偏差値が三十は違う。
「バカ、白嶺がオマエなんかを相手にするわけ――」
ユウジの指差す方向を振り返って愕然とした。
道の反対側。
上品そうに、口に手を当てて談笑する三人の少女達。
その中の一人。
スラリと背が高く、さらさらとした長い髪を風に揺らす女。
刹那、胸中に沸き起こる、どす黒い感情。
――あの女。
「おもしろそうだな……」
今しがた考えていたBMTのことなんて一気に吹き飛んだ。
「お、乗り気か、イオリ!」
「そ、そんな……」
嬉しそうなユウジと、青い顔でよろめくマツリ。
「ちょっと、声かけてみようぜ」
俺が見つめる先。
白嶺の制服に身を包んで談笑しているのは、昨日俺を木刀で殴った女だった。

「ねえねえ、俺たちと遊ばない?」
妙な猫なで声で、ユウジが三人の少女に声をかける。
それを聞いて、振り返った少女達の反応は三者三様だった。
「え、ちょっとカッコよくない?」
レイを見て、顔を赤らめる女の子。
「あっ……」
俺たちを知っているのか、やばいといったように顔を青くする女の子。
「……」
そして、俺を見て、何かに気づいたように目を見開く女。
昨日の女。
まさか白嶺のお嬢様だったとは。
昨日は白いパーカーを着ていた。
そういえば、パーカーからわずかに覗いていたスカートは白嶺の制服だったかもしれない。
女は、俺に気づいてから驚きはしたものの、その口に浮かべた上品そうな笑みは崩していない。
ただその目は笑っていなかった。
射抜くように、俺だけを見つめている。
「もしかして、秘密なのか?」
女に聞こえるように、俺は呟く。
白嶺のお嬢様が、夜な夜な木刀を振り回していていいわけがない。
「くっ」
案の定、女の顔が青ざめた。
ユウジが他の女の子に何か喋っているが、俺にはどうでもよかった。
肩にかけたラケットケースのような物を背負いなおす女。
部活なんてやってんのか。
ヤンキーのくせに。


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