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『Scars 上』
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『Scars 上』-7

広い部屋。
ブラインドを下ろした窓から、わずかな陽光が差し込む。
部屋の中央に置かれたデスク。
革張りの椅子に身体を預けた初老の男が、煙草に火をつける。
「……昨夜の乱闘騒ぎは、桜花学園の内部抗争が原因のようです」
初老の男の脇に立ち、手に持った書類に目を通す痩せ型の男。
「その抗争の結果、どうやら一年生が桜花のトップになったようで……、署長?」
初老の男が椅子を回転させて、ブラインドの閉じた窓に目を向ける。
報告を遮られた形になった痩せ型の男は、ただ困惑の表情を浮かべるばかりだ。
「なぜ、そのようなことを私に報告する? たかが、子供の喧嘩を」
紫煙を吐き出す初老の男。
「し、しかし、近年の少年犯罪は凶暴化の一途を辿っており、このままでは……」
痩せ型の男が気色ばんで反論する。
それでも、初老の男の表情には余裕の色が伺えた。
「わかっている。いずれ本気を出すさ。大人の本気をな」
薄く笑みを浮かべる初老の男。
男達は、共に青い制服に身を包んでいた。
霧浜警察署署長室。
優雅に紫煙をくゆらせる初老の男は、霧浜市の治安を預かる警察のトップに立つ男だった。
「ガキのことはどうでもいい。他にも報告すべきことがあるだろう。怖いのは、大人の悪者だ」
「は、はい!」
慌てて、書類をめくり始める痩せぎすの男。
そんな部下を眺めて、署長はため息をついて思った。
この街の少年犯罪が、他の街より深刻なことは理解している。
それでも、所詮は子供のすること。
大人が本気で叱ったら、子供は泣いて謝ることしかできないのだ。
ブラインドから漏れるわずかな日の光に目を細めて、署長は煙草を大きく吸い込んだ。



夕焼けの帰り道。
今日も一日、授業らしい授業は受けていない。
屋上でだらだらと、仲間と過ごしていただけだ。
退屈な一日だった。
いつもの面子、レイ、ユウジ、マツリと一緒に街を歩く。
「ねーねー、どっか寄って帰る?」
べたべたとまとわり付いてくるマツリにうんざりしていると、ふとあるモノが目に留まった。
「イオリ?」
「ほう……」
BMTと書かれたステッカー。
道路と歩道を分ける金属製の柵に堂々と貼られている。
注意して辺りを見渡せば、同様のステッカーは街の至る所に見て取れた。
「でかいチームだって言うのは本当らしいな」
弱小チームが、街の往来に堂々と自分のチームのステッカーを貼ることなんて出来ないだろう。
おもしろい。
「ああ、Bなんとかか」
興味なさそうに呟くユウジ。
たった三文字の単語すら覚えられないらしい。
「だから、ゆったじゃん! 街で一番でかいチームなの!」
マツリが怒ったように手足をばたつかせる。
ユウジが、そんなマツリを煙たがるようにして口を開く。
「なあなあ、俺たち桜花をシめたんだぜ?」
「そうだな」
俺はBMTのステッカーを見つめたまま答えた。


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