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『Scars 上』
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『Scars 上』-37

『イオリ、ビンゴだ』
ケータイから聞こえるレイの声。
『最初にいたザコをぶっ飛ばしたら、次々と兵隊が沸いてきやがった』
スカイタワー前の景色を思い浮かべる。
工事中の建物の数々。
身を隠すにはうってつけか。
「ユウジが駆けつけるまで、耐えてくれ。BMTの数はどれくらいかわかるか?」
『正確にはわからねえけど、ざっと百人はいるかもな』
まだそれだけの数がいるとはな。
ヴィヴィオの前にも相当数集まっているのに。
「マツリ。残りの兵力を全て南東エリアに集めろ」
「うん、わかった、けど……」
『おいおい、スカイタワーの下に集めなくていいのかよ?』
心配そうなレイとマツリ。
しかし、ヴィヴィオの前の敵をスカイタワーの増援に向かわせるわけにはいかない。
あくまでも、こちら側がBMTの頭の居場所に気づいていない、もしくはヴィヴィオとスカイタワーのどちらか迷っているという振りをしなくてはならない。
それに、大切なのは数じゃないのだ。
「心配するな。俺も出る」
そう言って、ケータイを切った。
ゆっくりと立ち上がる。
滾って来る。
ふつふつと。
体の奥から燃え上がる、熱くて黒い炎。
「……ふふふ」
戦場へと向かいながら。
俺はこみ上げてくる狂喜を抑えきれずに笑い声を洩らした。



レイは苦戦していた。
ユウジの部隊が五分程前に救援に駆けつけてきた。
それでも戦況は一向に良くならない。
レイとユウジが率いる桜花の精鋭部隊二十名。
対するBMTは百名以上。
数が絶対的に違うのだ。
むしろ、これだけの戦力差で全滅していないのが奇跡だった。
スカイタワー脇の路地が意外と狭かったことも幸いなのかもしれない。
狭い路地では、数を活かしきれない。
「イオリは何を考えている!」
背中合わせに構えているユウジがレイに叫ぶ。
「知るかよ!」
迫り来る敵を殴り飛ばしながら、レイは毒づいた。
倒しても倒しても。
BMTは雲霞のごとく集まってくる。
……どんだけいるんだよ、こいつら!
胸中で文句を言いながらも、レイは電光石火の動きでBMTを一人、また一人と屠っていった。
「くそっ! イオリの野郎!」
レイは、援軍をよこす気のないリーダーを罵った。
その時、BMTの間にどよめきが走る。
「水瀬だ……」
「あれが桜花を一ヶ月でシメたっていう」
降りしきる雨の中。
スカイタワーの影に隠れた路地。
宵闇の漂う路地の入り口に、傘を差した男が立っている。
全身をずぶ濡れにしながら殴り合っていた不良たちが、動きを止めた。
その男の奇妙な登場に。
「桜花の頭が、たった一人で……」
今、霧浜の街で大暴れをしている桜花学園の首魁が一人で、圧倒的に不利な戦場に出てきたのだ。
その場の誰もが、イオリの行動を不審に思った。
そんな中を。
荒みきった喧嘩場の真ん中を、優雅に、傘を差したイオリが歩いていく。
まるで女かと見まがう程に艶のある髪に、白い肌、赤い唇。
それでも、その表情は邪悪な笑みを浮かべている。
「随分、苦戦しているな。レイ」
長い付き合いのはずのレイですら、イオリの奇妙な行動に表情を険しくしている。


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