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『Scars 上』
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『Scars 上』-36

霧浜スカイタワー。
二対の超高層ビルからなる霧浜駅東口再開発のシンボルとなる建築物。
その周辺にある多くの建造物は、未だ建設中のままだった。
夕方になり、作業員の数は徐々に減ってきている。
降りしきる雨の中、無数に空に向かって伸びる鉄骨群は、どこか不気味だった。
未だ完成していない霧浜駅東口再開発。
ぼうっとスカイタワーだけが煌々とした照明を放ちながら聳え立つ。
そんなスカイタワーの麓。
狭い路地。
光り輝くスカイタワーの影にまぎれるように。
十数人の高校生が死闘を繰り広げていた。
学ランを着た桜花の不良たちを取り囲むように、十人近くのBMTが輪を作っている。
肩で息をつく桜花軍。
それをにやにやと余裕の表情で囲むBMT。
明らかに桜花側の劣勢だった。
約十分前まで、このエリアでの桜花とBMTの争いは拮抗していたのだ。
それが突如として崩れた。
急な増援があったわけではない。
桜花の不良たちは何が起きているのか全く理解できていなかった。
丁度、ヴィヴィオにBMT側が集結し始めた頃だった。
突然、桜花側の一人が地面に倒れた。
それまで、数も力も互角だったのに。
急にBMT側の動きが良くなったのだ。
初めに桜花側の一人が倒されてから、立て続けに三人が地面に沈んだ。
その時、残された桜花の不良たちは気づいた。
自分達が戦っていた相手が、ずっと手加減していたことに。
雨は、冷たく降り続いている。
ただでさえ劣勢な上に、雨がじわじわと桜花軍の身体を冷やし、体力を削り取っていく。
絶望がゆっくりと押し寄せてくる。
追い詰められた桜花の不良たちは、覚悟を決めたように、お互いに目配せをして頷いた。
「一人でも多く道連れにしてやる!」
そう呟いて、取り囲むBMTに特攻をかける桜花軍。
しかし、余裕の笑みを浮かべるBMTは桜花の特攻を鮮やかに捌き、いなし、そして――。
「ぐはっ」
「ぎゃっ」
トマトが潰れるような音がして、桜花の不良たちが雨の滴るアスファルトに沈んでいく。
未だに立っている桜花軍はたった一人だけになってしまった。
この部隊のリーダー格だった男。
男は、びくびく怯えながら立ち尽くしていた。
なんなんだよ、こいつら……。
レベルが全然違う。
男は理解できなかった。
なぜ、目の前のBMTの男達が、ずっと手加減していたのか。
こいつらなら、俺たちを一瞬でボコボコにできたろうに。
遊んでやがったのか。
「桜花のゴミ共が。身の程をわきまえろや」
BMT側の男が、そう呟いて拳を鳴らす。
その言葉に、完全に孤立してしまった男は覚悟を決めた。
「……すみません、水瀬サン」
雨に消え入りそうな弱い声だった。
「死ねや、ゴミがっ!」
BMTの一人が腕を振り上げる。
その時。
「な、何!」
風が吹いた。
一陣の峻烈な風。
「げほっ」
瞬く間に、倒れていくBMTの面々。
閃光のように、繰り出される芸術的なまでの攻撃。
「……大丈夫か?」
雨も避けそうなほどの強烈な気を発して。
「レイさん!」
二条レイが、そこに立っていた。
「大手柄だぜ、小平」
レイに小平と呼ばれた男は、唖然としていた。
自分達があれほど苦戦した相手が一瞬だった。
遠くから、仲間が駆けて来るのが見える。
雨に打たれて、長い髪を顔に張り付かせながらも、笑うレイを見て。
小平は思った。
この男は次元が違う、と。


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