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『Scars 上』
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『Scars 上』-11

――状況把握。
周りの景色を頭の中に詰め込む。
夜の公園。
心もとない照明。
右手にある薄汚れた公衆トイレ。
トイレからもれる、やけに煌々とした灯り。
左手に広がる公園の雑木林。
雑木林に広がる闇。
女の手に握られた木刀。
「覚悟しなさい!」
女の木刀がわすかに動いた時。
俺は横に飛んでいた。
「くっ!」
女の木刀が空を切る。
俺はそのまま左手に走る。
雑木林。
「待ちなさい!」
追って来る女。
俺は雑木林に入った所で、女を迎え撃つ。
「来いよ」
「偉そうに!」
女が木刀を振りあげる。
俺はそれを最小限のステップでかわす。
「甘い!」
言いながら、木刀を横に凪ぐ女。
がつん、と。
木刀が木に当たる音がした。
「なっ!」
女の顔が青ざめていく。
「ここじゃ、思う存分振り回せないだろ、ソレ」
自分の声が、いつも以上に冷たく響くのを聞く。
辺りに生い茂る木々。
俺の誘いに乗ってしまったことに気づいた女。
その頬に、一筋の汗が伝う。
「こいつ……!」
女が戦慄する。
生い茂る木々に当たらないように振るった木刀。
易々と予測できる起動を描いた木刀を、俺は難なくかわす。
一気に女との距離をつめた。
「くっ!」
女の襟元を掴む。
苦悶の表情を浮かべる女。
ふわりと、女の香りが鼻についた。
「俺の勝ちだな」
女を引き寄せて、そう呟いた。
圧倒的に不利な状況に追い込まれた女。
それでも、その目は死んでいない。
こんな状況でもなお、俺を意志の篭った瞳で睨みつけている。
燃えるような瞳。
勝気な奴……。
息がかかりそうなほどの距離で、女を見つめて俺は改めて驚いた。
女の美しさに。
そういえば、さっきユウジが声をかけた三人組の中でも、ずば抜けてこの女が綺麗だった。
「……さっさと殴れば」
顔を背けて、悔しそうに呟く女。
女の白い喉元が露わになる。
綺麗な曲線を描いていた眉を歪めている。
「言われなくても」
俺は何かを振り払うように、拳に力を込めた。
その時。
「アスカ!」
聞きなれない男の声がした。
とっさに首をひねる。
瞬間、さっきまで俺の頭があった場所を大質量のものが通り抜けていく。
間一髪。
地面に何かが落ちる音。
とてつもなく重い何かが。
「なんでアイツが、ここに……ぐっ!」
不意に、女に胸を突き飛ばされた。
「サンキュ、シバ!」
女が駆けていく。
それでも、俺は女を追えなかった。
あるモノから目をそらすことが出来なかったから。
雑木林の中で、禍々しい気を放ちながら蹲る大男が一人。
まるで獣が低く唸っているように。
殺意を込めた目で俺を睨む。


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