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風待つ島
【フェチ/マニア 官能小説】

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風待つ島-2

 取材を初めて3カ月。私は島に溶け込みはじめ、置屋の女性などとも気軽に世間話ができるようになった。私は警告されていた夜の取材を始めることにした。日本語も覚束ない売春宿の外国人をターゲットに選んだ。日本人の売春婦も確実に存在するが、タイやミャンマー出身の女性の方が私としても話がしやすい。
「アンタのこと、みんな知ってるよ。気をつけた方がいいよ」
「ありがと。でもそんなんじゃないって。あなたがタイ国境に近いミャンマー出身だって聞いたから。この間行ってきたばかりなんだよ」
 私は地図を取り出して辿ってきたルートを示し、写真を見せた。昔を懐かしがるようなその瞳から、私への警戒感が薄れるのを感じ取ることができた。今日はここまでにしようと思った。

 この島には警察は存在しない。自警団のようなものに守られている。守られているのは島民というより、島の秘密であろう。そのボスのような漁師の男に、私は釘を刺された。
「いつまで取材してるんだ? 雑誌にも何も出てねえじゃねえか」
「特集で組みますよ。私、何もトラブル起こしてないでしょ?」
「ふーん、そんなに長い間取材する価値のある島かよ」
 明らかに私を疑っている。
「この島を観光の島として開発していく、町長さんのお手伝いしてるだけですよ」
 私は広域暴力団の影を探していた。日本のマル暴はタイ、ミャンマー、ラオス国境のゴールデン・トライアングルまで薬物利権を求めて進出している。人身売買もシノギにしているはずだ。そんな私の真意を、この男は気づいているかのようだった。

 ある日の午後、職場でふと携帯メールを確認すると、見知らぬ男性からの着信記録がある。誰だろう。思いを巡らせつつメールに目を走らせた。
「先日はすまなかった。私の誤解だった。直接お会いして謝りたい」
 あの渡鹿野島の漁師だ。男は町長にも会ったらしい。島のためにも取材に協力したい、いま伊勢市に来ているのでこれから会えないかという。妙に唐突だったが、ここは渡鹿野島じゃない、会社の近くなら大丈夫だろうと思い承諾の返信メールを送った。まだまだ取材は緒に就いたばかりで、島のボスを敵に回すわけにもいかない。伊勢市内の損害保険会社の駐車場を指定された。男はそこに車で来ることになった。私は念のため同僚に事のいきさつとこれから会う男の名前を手短に話しておいた。

 仕事場を出たのは夜11時近かった。駐車場まで小走りで急ぐと、男は黒っぽい車から身を乗り出すようにして待っていた。
「この間は失敬した。町長にも怒られたよ。少し話したいことが」
 男は車の助手席に私を誘った。車の中しか話のできる場所はなかった。
「5分か10分ですむ。あの島には血の気の多いヤツが多いから、あんたに悪気がなくても外人女に取材したりしてるとこ見つかると厄介なことになるぞ。あんたのために言ってるんだよ」
 私は車に乗る決心をした。
「手短にお願いします」
 私はドアを閉めた。その瞬間に、後部座席にもう一人、男が乗車していることに私は気がついた。身の危険を感じて再びドアに手をかけた瞬間、後部座席の男が細い紐のようなものを私の首に巻き付けた。そして力を込めた。私が必死に首と紐の間に両手の指を滑り込ませようとあがき始めたその時、冷たい銃口が脇腹のあたりに当てられているのに気づいた。漁師の顔からは先ほどまでの笑みが消えていた。漁師の指図で後部座席の男は紐をしまった。ほっとしたその瞬間、みぞおちのあたりを強く殴られた。今度は後頭部を銃口らしき部分で殴られ、私は気を失った。


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