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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かくてタキタかく語りき-1

滝田学、20歳。世の中そろそろバレンタインデー。僕の心もそわそわしてきたところだった。彼女があんなことを言い出すまでは。
「墓参りに付き合ってくれないか」
ジュンは炬燵の前に正座して、僕に尋ねた。まさか……かの聖なる日に行くつもりではなかろうなと思いながら、とりあえず聞き返す。
「……いつ?」
ジュンは長い髪をたくしあげてから、申し訳なさそうにぼそりぼそりと答えた。
「タキタの、空いてる日だったら……いつでも……イィ、のだ」
ううむ。これは本っ当にお願いしているんだろうなぁ。
僕はため息を一つついてから答えた。
「いいよ。どこに行くの?」
僕がジュンの頭をぽむぽむと叩くと、彼女はやっと顔を上げた。
「ホント?本当にいいのかっ?」
僕の手を力いっぱい握ってくる。
……むう、かわいい。
「ホントですから。ね?」
大きな瞳をきゅうと細めて彼女が笑う。これは、本当に嬉しい顔だ。
どこまでも真っ直ぐなヒト、村井純子さん。僕の、大切な彼女。
「あのな、このコのお墓に行くンだ」
ジュンは本棚から重そうな本を引っ張り出して、ぱかっと開いた。どうやら卒業アルバムのようだ。
あ、純子さん見っけ。
「これでしょ?」
「……ヨクわかったな」
彼女は、先に当てられてつまらないと言い足げ顔だ。
だって、あなたのその瞳はどうやっても隠しきれないんですよ?もそっと自覚してください。
「それで、目当ての子は?」
ジュンがすぅっと息を吸った。そして、人差し指で、ある1コマをそろりと示した。
「……ケイちゃん」
ケイちゃん。他の写真とは明らかに違う色合いで、彼はアルバムに収まっていた。
やわらかそうな黒髪に、どこか焦点の合わない瞳。高校生には見えない身体の幼さ。不謹慎だけど、健常者じゃないことは一目でわかった。
「ケイちゃんは、目が見えないの?」
彼女は何も言わずに、首を縱に振った。少し心配になって、ジュンの顔をひょいと覗き込んだ。
「……うん」
そう答えた彼女の様子があまりにも辛そうだったので、僕はそれ以上「ケイちゃん」のことを聞かなかった。というより、聞けなかった。
僕に、それを受け止める自信も無かったから。

そして、二月の十四日。ケイちゃんの眠るお墓に行くべく、僕らは初めて二人で電車に乗った。
「なんだか、ワクワクするな!」
飛び乗るように椅子に座ったジュンが笑う。お昼になったらおベントを広げるんだ、おやつもあるんだ、と息つく暇無くしゃべるジュンを見ていたら、このお墓参りを無理やりに楽しもうとしているんじゃないかとも思えた。
僕が黙ったままなのを気にしたのか、ジュンは大人しく席についた。
「すまなかったな、春休み早々こんな旅に付き合わせて」
確かに、バレンタインデーに墓参りってのもどうかなと思ったけど。
「いいえ。楽しいですよ?」
やっぱり彼女と一緒だと何をしてても楽しい。それは本当。
「そっか。……でも、オカネもたくさん使わせちゃったし。ゴメン」
次第に縮こまっていく彼女を見ていて、このまま放っておいたらどれくらい小さくなるかなとか考えたけど、やめた。
「気にしないでってば。ほら、おやつ」
口の前に持っていくと、ジュンは条件反射でぱくっと食べた。こくんとそれを飲み込んでから、さっき自販機で買ったばかりの温かいミルクティーを取り出した。
「そういや、タキタは勤労ガクセエしないのか?」
「僕ですか?」
ペットボトルの蓋を回そうとしたジュンの手が滑る。僕は彼女からそれをひょいと取り上げ、パキッと軽快に開けた。甘ったるい香りが二人の間に漂う。
「前やってましたよ」
ジュンにミルクティーを渡すと、嬉しそうに口元に運んだ。
「……飲食店で」
「えエェ!!?」
予想外の彼女の驚きっぷりに軽く傷心しながら、言い返した。
「そんなに驚かなくたって……」
「だって、なんかさ。その……似合わない、カンジで」
ミルクティーで湿った唇がふるふる揺れる。僕は思わず目を反らした。
「悪かったな」
動揺を悟られないように早口に喋ってから、そのまま背を向けた。すると、ジュンは僕が怒ったと勘違いしたらしく、指先で背中をツンとつついてきた。僕は顔がほころぶのを感じながら彼女に問うた。
「さて、滝田君はどうして飲食店でのバイトを辞めたのでしょーか?」
背中越しにも、ジュンの耳がピコッと立つのが分かる。
ふふ、素直なヒトだ。
「サービス業は似合わないと思ったカラだろ!」
背中にずびしと人差し指まで立ててくる。
にしてもなんだ、その自信満々な解答は。
「チガイマス」
「んむう。なんだ?」
そっぽを向いたままの僕の背中に、彼女がこつんと頭を載せた。
ジュンって、こーいう問題には頭をこねくり回さないんだよな。
「いやね、クビになったんですよ」
「クビぃ?」
こっちは予想通りの驚きっぷり。
「何シデカシたんだぁ?真面目君!」
「あの頃は僕も若かったんですね」
手を伸ばしてジュンからミルクティーを取り上げ、僕も一口飲んだ。胸一杯に甘みが広がる。悪くない。
「ちょっと柄の悪い二人組の会計の時にね、『お会計は?』って聞いたのさ。そしたら、『お会計はって、払うに決まってんだろうがよぉ』と答えたもんだから」
後ろでジュンがくつくつ笑う。我ながら声真似が似ていたから、多分それを笑っているんだろう。
「カチンと来た僕は、つい『お会計は、このお二人様の分をどちらかが気前よく一括でお支払いなさいますか?それとも大っ変面倒な方法で、お一人様ずつ別々にお支払いに致しますか?』って聞いたんですよ」
背中でジュンがころころ笑った。
「……エゲツない」
あの時の店長の顔ったら無かったなあ。思い出し笑いをしていると、ジュンも一緒に笑った。


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