僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-20
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澪に完全に誤解されてしまった真琴はしょんぼりしながらもガレージにいた。
現場に一人で行ったところで分かるのは水域の高さぐらい。検証をするには誰かの協力が必要なのだ。
そして出来れば紗江を説得して、澪の誤解をとかせたいということ。むしろそちらの方が比重が高くなっているような気もする。
「お・ま・た・せ!」
急に視界が柔らかいもので塞がれる。
「わぁ! ……ん、紗江さんからかわないでよ……」
ぎゅうとしがみ付くようにする彼女の手を振りほどこうと頭を振るが、紗江は笑うばかりで離そうとしない。
「ちょっと、いい加減にしてくださいよ!」
女性相手に手を上げるのもどうかと思いつつ、真琴は彼女を押しのけようと腕を伸ばす。
「あん!」
「へ?」
ぐにゃりとした柔らかさは女性特有のもの。特に自分はこの感覚が好きであり、あわよくばその感触を楽しみたくもある……が、
「ご、ご、ご、ごめんなさい! あの、わざとじゃないです! その、けしてオッパイが好きなんじゃ……いや、おっぱいは好きですけど、そうじゃなくて……」
「うふふ、かわいいな真琴君。やっぱり童貞なんでしょ? 澪ちゃんの気を惹きたくてたまらないって感じがするし、ねえねえ、そうなんでしょ? 童貞君……」
パーカー姿の紗江は揉ませるように胸を張り、真琴をペットか何かを愛でるように見つめる。
「う、そんなこと……」
どう答えてよいものかわからず、真琴は沈黙の金を選ぶ。ただ、どうやら金の相場もまた移り変わるらしく……。
「正直に言えばいいのに。君みたいに可愛い子、どこでも需要があるわよ?」
その需要なら昼間しっかり供給を果たしてきたわけだが、それとは別に彼女のどこか遊び半分な態度を見ていると、この調査も時期に暗礁にのりあげるのではと心配になっていた……。
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三日月の照らす海辺、波しぶきが頬といわず全身を濡らす。
そんな中、真琴は紗江を抱えて岩場へと向っていた。
身軽で運ばれることに協力的な紗江にも関わらず、波に煽られ思うように歩が進まない。
それでもなお歩くこと数十分。膝、腰の辺りまでびしょ濡れになり、ようやく例の岩場へとたどり着く。
「はー、はー、はあぁ……」
日もすっかり沈んだとはいえ昼間の暑さはしつこく彼に纏わりつき、休むと同時にオデコから腕からと汗が一斉に噴出す。
「なんとか運べたね」
ただしがみ付くだけの彼女もやや濡れてはいるものの、涼しい顔で辺りを見ている。
「でも、やっぱり弥彦さんを運ぶなんて無理かも……」
「そうだね。どうやってきたんでしょ……」
月明かりに人差し指を唇に当てる紗江のシルエットが見える。逆光のせいで表情は見えないが、濡れたパーカーを脱ぐとその身体のラインが見える。
膨らむところはしっかり自己主張を果たし、引っ込むところはすまし顔。標準の女性体型は逆にリアルな女性を意識させ、推理そっちのけで見惚れる気持ちがあった。