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近くて遠い恋
【青春 恋愛小説】

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近くて遠い恋-4

「えなちゃん重いんだよね」
え?どうして?あたしのそばにいるって言ってくれたじゃん。あたしは‘また’重荷になってたの?あたしが気づかないうちに。
「飽きちゃったし別れよう」
隣にはあたしじゃない違う女。去っていく奴。待って、一人にしないで!!お願い!!
ピピピピピピ…
目覚まし時計がうるさくあたしの耳元で鳴り響く。夢か…最近寝て起きるといつも泣いている。不安でたまらないんだ。あのけんかの日以来、奴と口を聞いていない。素直じゃないあたし。こんな自分大嫌い。でも怖いんだよ。あなたに嫌われたくない。分かって。あなたのことにしか頭にないの。分かってよ…。
今日もバイト。今日も奴とは話すこと出来なかった。でも奴の顔が見れるだけで、あたしの心は高鳴る。ドキドキって。でも…奴の目にはあたしじゃない人がうつってる。あたしの心は痛いって言ってる。ズキズキ悲鳴をあげてる。
「最近大島君と話してないみたいだけど、何かあった?」
心配そうに高橋君が聞いてきた。あたしと高橋君は一緒に帰ることが当たり前になった。そして奴は森下先輩と…。
「なんでもないよ」
無理して笑顔を作るあたし。でも笑ってないよ、あたしの顔。
「僕だったら澤口さんにそんな顔させないのに…」
無理して笑うことしか出来ないよ。
「あのさ…今週の土曜日、一緒に花火大会行かない?」
今週の土曜日…その日はあたしの誕生日。奴は知らないだろうけど。でも、夏休みが始まってすぐ、奴があたしに言ったんだ。『えなちゃんにとって忘れられない日にするから』だからその日はあけてねって。
「ごめん、無理だよね」
高橋君が困った顔で笑うから、私もやっぱり困った顔で笑った。奴に私の気持ちを伝えた時みたいに。『あたしもたくのこと気に入っちゃった』ってね。奴が抱きしめてくれた時のぬくもり、忘れちゃいそうだよ…
その次の日もバイトだった。今日シフトに奴は入っていない。顔が見れないけど、凄く寂しいけど、心が痛くならないですむ。でもね、あたしの心は泣いてるよ。奴がだんだん遠くなってる気がして、奴の心がどこか違うところに行ってしまったみたいで。あたしの心は泣いてるんだ。
あっという間にバイトは終わった。いつもと同じように更衣室にはあたしと森下先輩2人。森下先輩と帰ってる時、奴はどんな顔して話しているのかな。森下先輩にも優しく頭を撫でたりするのかな。ダメだ、こんなこと考えちゃ。あたしは奴を信じてるから。でもそんなあたしの気持ちは一瞬で崩れ去った。
「澤口さんさぁ、また遊ばれてるんじゃない?」
森下先輩が笑って言う。なんかこう、人をあざ笑うような顔で。
「どうゆう意味ですか」
そんなこと言われたって気にしちゃいけない。あたしは必死に平然を装った。
「たくは澤口さんよりあたしがいいって」
「そんなわけない!!」そんなわけないじゃん。奴にはあたしがいるんだから…。
「そう思いたいのは分かるけど」
そう言って、あたしの横を森下先輩が通った時、あたしは奴の気配を感じた。いや違う、奴の香り。奴のいつも付けている香水の香りだ。
「この香水…」
「あー匂いうつっちゃってる?だってたくってばずっとあたしのこと抱きしめてくるんだもん」
うそ…違う。そんなのうそだよ。でも…奴の香水は限定品だからもう発売してないって奴は自慢していた。その上レアだから持ってる人めったにいないって、手に入らないって。
あたしはどうやって帰ってきたのか覚えてない。気がついたら家で泣いていた。もう何も信じられない。信じれば裏切られて、そんなのもう嫌だ。もういらない。


僕の名前は高橋はやと。窓際の席の君は、いつも優しい笑顔をしていたね。窓からいつもグラウンドを見ていた君。陸上部の僕はそのグラウンドからいつも君を見ていた。知ってるよ、この広いグラウンドの中に立っているちっぽけな僕は、君の目にはうつっていない。それでもいいんだ、憧れてるだけだから。君は決して手に届かない、高嶺の花。そう思っていた。
ある日、いつも窓際にいる君がいなかった。次の日も、その次の日も…
僕は練習する気がしなくて、屋上に行った。
「ばかやろー!!」
そこにはグラウンドに向かって泣きながら叫んでる君がいた。びっくりして、声を出してしまった僕に気づいて、
「みんなには内緒だよ」
君は困ったように笑ってそう言ったね。覚えてる?
君はきっと高嶺の花なんかじゃなくて、もっと繊細で、傷つきやすい人だった。大声で泣きたくても、誰かに頼りたくても出来なくて、一人になるのを誰よりも恐れている。
また君の笑った顔が見れるようになって僕は嬉しかった。だけど君の笑顔は僕に向けられたものではなくて、それでも君を笑顔にしてくれる人がそばにいてくれて、君が笑っていれば僕も嬉しいんだ…だから君が傷ついてる姿を見るのは僕もつらいんだ。

君の隣に僕がいて、君が隣で笑ってる。でも君は君の隣に僕じゃない人を思い浮かべてる。君の心は笑っていない。君の視線の先にはいつも彼がいた。君の心に僕はいない。どうしてそんな悲しい笑顔をするの?どうしてそんなに無理して笑うの?『僕だったらそんな顔させない』心から思うよ。本当だよ。僕は必死で怒りを抑えてた。優しい笑顔の君を、僕が取り戻せないかな。
君が泣いて出て行った時、どうしても我慢出来なかった。君から笑顔を奪うあいつを僕は殴った。僕が君を笑顔にしたいから。誰にも君を傷つかせないから…。


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