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初恋はインパクトとともに
【青春 恋愛小説】

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初恋はインパクトとともに ♯4/ステップアップハートビィト-7

ひとまずアキラと別れた僕は、2階の観客席(応援席か)に陣取っていた。結構狭々した道場で、試合場は6面しかない。
(そういえば俺も参加したことあったような…)
そんなことを考えながら、何となしに左手に残る傷を眺めていた…僕の左手の親指と人差し指の付け根には結構深い傷が残っている。
この傷を見る度に昔の自分の未熟さとか向こう見ずな部分とか…どうしようもなさを思い起こさせられる。
(別に未練なんてないんだけどさ…)
もう剣道をやめて数ヶ月…一年近くが過ぎようとしていた。だから別に何ということもなく、客観的に見物することができた…できるはずだった。
(おっ!アキラの試合が始まる!)
さすがは3年連続全国一位。会場を包む空気が変わった。
アキラにはなんていうか強者の凄みとかとは別に何か独特のオーラがあるんだよな。剣道をしているときはそれがさらに高まる感じだ。

ほら、アキラが試合を開始しようとしていると、視線がどんどん注がれていく……
当のアキラは何だかキョロキョロしているが…
(何してんだろ…捜し物?挙動不審?)
アキラの視線はぐるっと一周して俺のもとへ。
何だか手を振られました。
とりあえず手を振り返しましたが。
アキラを見つめていた視線がドッと俺の方に…。
(な、何か見られてる?見られてるよね?)
しかしそれは一瞬の出来事だった……アキラの試合が始まったんだ。

僕がアキラの試合を見たのは一度だけ…そう、剣持さんとのあの試合だ。
本日の一回戦の相手は長身の女性。
(俺よりも高そうだな)
リーチもアキラより随分長そうだ…。でも、アキラのあの凄まじい試合を見ている自分は何となく相手との力量を見てとた。
『せぃやぁぁぁ〜』
『はあぁぁぁ〜』
(そういえば決まりとかないのに、みんな試合前に必ず気合い入れるよな)
試合が始まる…アキラは中段に構え…いや違った、諸手上段に構えた。小柄なアキラが長身の相手に対して上段…セオリー的には不利なんだが。
(上段は一撃必殺の構えで初太刀を外すとかなり不利になる…また、片手面は大振りになりやすく、腕の力も必要なため、比較的上級者向きの構えと言える)
相手も警戒しているようで動かない。
二人の間合いはアキラの歩幅で三完歩といったところだろうか。身長差を考えると一回の踏み込みで届くのかは微妙なところ…
しかし僕の読みはいい意味で裏切られた。
痺れを切らしたのか、緊張感に耐えきれなくなったのか相手の竹刀が沈む(竹刀の切っ先を自分から見て相手の首の辺りに向けるのが中段の基本的な構え)
次の瞬間にはアキラの片手面が見事に決まっていた…。
「疾い迅い…それに伸びる…」
スパァァンと音が後から飛び込んできたほどだ…こんなに鋭い技はもちろん見たことない。
自分の見立てよりもアキラの踏み込みは鋭かった長かった。しかも踏み込む際のモーションがかなり小さい。
体が沈んだと思った次の瞬間にはもう片手面は決まっていた。
もしかしたら足首の返しだけで軌道を変えて飛んでいるのかもしれない。
(普通そんなことしたら足をつるか、アキレス腱を痛めそうだが)
ホント、規格外の凄さだ。一般的見解では計り知れない。
その姿は、まるで歴史でしか語られない伝説の剣豪のようだった……。
手に汗握った、興奮した…自分がかつては憧れ夢見ていた剣士の姿がアキラと重なった。
だけど……
だけど、自分はもうその姿を追うことは叶わない目指すことは許されない。
感動感嘆と同時にその現実も垣間見た気がして、興奮は意外とあっさり冷めてしまった…アキラへの憧れや尊敬とは別だけど、別なんだけど…生き生きと剣道に興じるアキラの姿にちょっと嫉妬したのもまた事実だ。
(はは…嫉妬ってなんだよなぁ)
「憧れだけで十分だよな。」
(アキラに嫉妬するなんて…俺のバカめが!)
「止めい!!」
ちょうど二本目の面が決まって一回戦が終わったところだった。
アキラは僕の方を見て『どんなもんだい!』とも言いたげに竹刀を軽く突き上げていた。
俺もとりあえずVサインを送っておいた。
アキラは楽しそうに嬉しそうに笑っていた。
(くそ〜やっぱ可愛いな)
いつのまにか、先ほどの思惑などすっかり忘れてしまっていた。
なんかこういうやりとりってさあ…
なんていうかさあ…
うぅ…何か感無量であります。


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