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「瓦礫のジェネレーション」
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「瓦礫のジェネレーション」-48

美咲は喉の渇きを感じてキッチンへ向かった。陸が誰かと話している声がする。
「陸?」
美咲が声をかけると、中から女性が走り出てきた。
(今の、岳人さんの彼女だった人よね、樺沢美奈子さんだっけ。どうして陸と?)
美咲がキッチンへ入ると、陸がコーヒーを飲んでいた。
「美咲……どうした?何か飲むか?」
「あ……うん、水でいい」
「ごめん美咲、落ち着いたらちゃんとゆっくり時間作るから」
「うん。大変なのはわかってるから大丈夫。……そうだ。今日は泊まるからね、私。陸がなんと言っても。健志にも『迎えに来なくていいよ』って言っちゃったから」
陸の表情に一瞬困惑の色が浮かんだのを美咲は見のがさなかった。が気付かないフリをした。陸は
「わかったよ。親父やおふくろにも近いうちにきちんと話さないといけないと思ってたし」
と言うと美咲を抱き寄せて額に軽くキスをした。
(大丈夫、よね……私の気のせい)

通夜の来訪者も夜半を過ぎて大分減ってきた。
「美咲、もう休んでいいよ。俺もすぐあがるから……」
陸からそう言われて、美咲はようやく緊張から解放された。そこへ陸の母ゆり恵が声をかけてきた。
「美咲ちゃん、ごめんなさいねぇ。こんなに遅くまで手伝わせちゃって……」
「いいんです、おばさま。いつも私のほうが陸に迷惑ばっかりかけちゃってるから……。それより、おばさまこそ早くおやすみにならないと……」
「それにしても、あの美咲ちゃんがねえ。私も先生も、美咲ちゃんを岳人にってずっと考えていたから……。まさか陸と、とはねえ。疲れたでしょ?お風呂入ってらっしゃいな。タオルとかは好きに使っていいからね」
「はい。じゃあすみません、お先に失礼します」
美咲は会釈するとバッグを持って陸の部屋に行き、そこで喪服からスウェットの上下に着替えてから風呂に入った。
湯上がりの髪をバスタオルに包んで水気をとりながら陸の部屋へ戻る途中、ふと気になってキッチンを覗いた。
「陸、お願い……もう少しだけ……」
美奈子が陸の背中に縋り付いている。陸はほんのちょっとイライラした様子で
「美奈子、いい加減にしてくれよ。今までだって美奈子は有能な秘書としてやってきてたじゃないか。どうして急にそんなに弱くなるんだよ」
と言った。ドアから覗く視線に気がつくと、陸は美奈子を振払って美咲に近付いた。その二人の脇を通り抜けて美奈子が廊下を走り去る。
「ごめんな、美咲。彼女、ちょっと精神的に参ってるから……」
「……うん」
「ビール……は止めてるんだっけ。もらいものの大吟醸があるから、飲もう。肴は牡蛎の薫製でいいよな。あと、オイルサーディンにレモン、と」
「……いいの?」
「いいの、って?」
「今の人。美奈子さんだっけ」
「大丈夫だよ。美咲が気にすることじゃない」
(違う。今のは絶対に『恋人を失った女と、恋人の弟』っていう関係じゃない。あの人が陸と……?)
美咲は大きくなる不安に潰されそうになりながら、重い足取りで陸のあとを付いていった。


「美咲、ほら、こっち来て飲めよ」
陸に呼ばれ、美咲は躊躇いがちに切り出した。
「陸、ひとつ聞きたいんだけど……」
「あ、何だ?」
「さっきの……美奈子さん。陸のこと呼び捨てにしてたし、陸も『美奈子』って……」
「あ……」
(聞かれてたんだな、やっぱり。ボストンのことだけでも話さないとまずいか)


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